『……』


目の前には平謝りしている元親。


そして、


無惨な姿になった“元”携帯電話。


『………』


なんというか、言葉も無い。

大学から帰って来たら既にこうなった後。
珍しく元気のない元親が、おずおずとこの残骸を差し出してきたのだ。

それはまさしくデジャブな光景。

一度目はテレビのリモコンだった。
分解した後、結局元親は元に戻せなくて謝ってきたわけだ。

…それで携帯が手に負えるはずがないだろ


「すまねぇだいすけ…まさかこんなにふくざつだとはおもわなくてな…」


視線を向ければ足元の元親は目一杯肩を落としている。

見る影もない携帯を手に乗せてながめれば、自然とため息の一つも吐きたいところだが、なんとか押しとどめた。


『(……忘れて行った俺が悪いのか)』


むしろ悪いと思っておこう。

そうでなければ気持ちのやり場がない。


『…なんで中を見たかったんだ?』


「そのよぅ…よくだいすけがいじってるし、ちいせえのにつかいみちがひとつじゃねぇからふしぎでな…」


前から一度調べて見たかったのだと言う。
現代人の俺ですらよくわからねえ金属だのなんだの使ってある機械を、電気も知らない戦国武将が調べられるかよ。


『…ケガは?危なそうなもんとか触ってないだろうな』


まさか誤飲なんかしないだろうが。

しかしとりあえずは大丈夫そうに見える。
本人も首を振っていた。


『大丈夫ならいいが…むやみに調べるのは感心しねえな』


「……」


というか困る。

400年以上の文明の進歩はなかなか超え難いものがあるだろうから、どうしたって大抵は壊すだけで終わってしまうだろう。

そうなれば俺は勿論、元親だっていい気分じゃないはずだ。


『まず俺に一言聞いてくれ。いいな?』


「わるかった…もうしねえ」


しっかりと頷く元親を見ながら、そういえばと思いつく。


『ちょっと待って』


「だいすけ?」


たしかあった気がするのだが。

踵を返し、急にガタガタと棚を開けはじめた俺を不審そうに元親が見ている。


『元親』


「なんだ?」


『やる』


渡したのは手巻き式の懐中時計。
半分骨董の域に入りかかってるような年代物だ。


『それなら分解してもいいぜ』

手頃な物で練習してほしいってのが本音だが。


「おいおい、いいのかよ?けっこうなねうちもんじゃねぇのか?」


『別に普通に使ってくれてもいい。それとも時計には興味がないか?』


「そんなことねぇよ!…ほんとにいいのか?」


その為にわざわざ出したんだしな。
いらないと言われた方が困る。


『いいんだよ。誰も使ってないしな』


「すまねぇな、ならありがたくいただくぜ!」


言って元親は爽やかに笑った。

そのしっかりと時計を胸に抱く姿に満足する。


とりあえず、

後で工具の使い方も教えなければ。





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