ふっと燭台の火が消える。

手で触れたのではない。
勿論息を吹きかけたわけでもない。


これは正直、予想していなかった。


「……」


『…驚いたな』


習いたいと言われ、術を教えはじめて十日目。

目の前に座る元就自身、にわかには信じ難いようだ。

なにしろ一回目には失敗しているのだから。


『元就は飲み込みが早いな』


理屈を本なんかで教えた時もそうだが、単に頭が良いのだと思っていた。

確かにそれもあるだろうが、どうやらそれだけでもないらしい。


「…とうぜんよ。われにかかればたやすきことだ」


いくらか驚きから立ち直ったのかいつも通りの強気な言葉が返ってくる。

ちょっとばかり胸を張っている姿が純粋に嬉しそうでよかった。


『それでも、二回目で成功させるのはすごい』


少し強めに頭を撫でると、手の下の頭がやや下がる。

目をつぶるその顔が、やけにいつも子どもっぽく見えて。


『…どうだ?実際に使ってみた感想は』


ふと、戦国の武将たちは皆、俺に父親の姿を見ているのだろうかと思った。

体が子どもに戻った分、甘えるのも懐かしいんではないか。


「ふむ…おもったよりもしゅうちゅうをひつようとするな」


『疲れていないか』


大丈夫だと言うので、もう一つなでて手を離す。


「…つぎは水だったな」


『まあな。だが、今日はここまでだ』


元就は何も言わないし、基本的に表情も変わらないのだが。

手を離した時になんとなく雰囲気が変わるのだ。


『疲れすぎる』


それが不思議とさみしそうに見えてしまうから、

つい手が伸びていくのは仕方がないと言うものだ。


『いいな?』


「…ならば、あすもかならずおしえよ」


念を押しながらもどこか満足そうな顔を見て自分の方も満足する。

二度目に頭を撫でながら

この感情表現に乏しい子供をできるだけたくさん甘やかしたいと思った。





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