ゆっくり歩いているつもりだ。


ゆっくり歩いているつもりだが、


気付けばいつも、となりの子供は小走りをしている。


『あ…悪いな』


「なんの!きにしないでくだされ!」


頼もしげににっこり笑う。

しかしはいそうですかとは言えないわけで。

ちょろちょろと周りの物に気をとられながら進むのだから、そんな子供ははぐれやしないかと気になるに決まっている。

勿論そんなことは幸村に限ったことではない。

が、要領が悪いのかなんなのか、となりで走るのは幸村だけだ。


そこでふむと一つ頭をひねり


『幸村』


「なんでござるか?」


片手を伸ばしてその小さな手を取った。


「!!!」


『離すなよ?』


これではぐれる心配はないし、走らせることもないはずだ。


『幸村はちょっと危なっかしい気がするからな』


言えば


「…それがしだけなんでござるか…?」


よっぽど恥ずかしいのか一瞬で顔中真っ赤にしてしまう。
八の字に下がった眉毛がなんとも言えず気の毒すぎた。


『さすがに嫌か…なら、』


仕方がないと外そうとして、止まる。

ぎゅっと握り返されて外せなかった。


「……その…だいすけどのがいやでないのなら…」


うつむいて顔は見えないが、いまだに耳までしっかり赤い。

つないだ手まで熱い気がした。


『なら、これで頼む』


「…しょうちしたでござる」


珍しくぽそぽそとした返事が聞こえる。

こんなに恥ずかしがらせるのも悪い気がしたが、それでも俺の手はしっかりと握られているから。


これならば、用心の迷子札は作らなくても良さそうだ。





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