中学生たちが増えました2
既に現代風の元親は良いが、片倉と風魔の服は仮装だ。
寧ろ衣装に近いだろうか。
政宗と来た時と違い抱えて隠す事も出来ないし、何より本人達の背丈が違う。中学生くらいがこの格好で歩いていると刺さる視線の数も前回の比ではない。
今日がまだ人の少ない平日で良かった。
一番手近な店でとりあえず全身分買い揃える。少々恥ずかしかったが試着室を借りて着替えも済ませた。
まぁ、ここからが本題な訳だ。
『適当に好きなのを選んでくれ』
端から店を回りつつ好みの服を探してもらう。折角本人がいるのだから意見を優先したいではないか。
「おれは?」
『元親の服は階が違うからちょっと待ってろ』
「わかったぜ!」
了解して散って行った二人をそんな会話をしながら待つ。外に連れて来るのは初めてだけあってやはり質問は尽きないらしい。腰掛けたベンチでひたすら隣からの問いに答え続けていた。
とりわけ元親が興味を持ったのは機械関係、中でも自分も乗って来た車に話題が集中する。
「そーいえばよ、‘くるま’のおくにもういちだいからくりがあったよな?」
『バイクの事か』
確かに駐車スペースは近い。元親の言う特徴から察すれば恐らく間違いはないだろう。
車と同じく移動手段の一つだと伝える。
『二人しか乗れねえがな』
「‘ばいく’はおれにもあつかえるか!?」
期待しているのかやけに目が輝いている。
それを裏切るのは酷く心苦しいのだが、生憎無理な相談だ。
大体大型だからまず手足が届かないだろう。
『…あれも車と同じで免許がいるんだ』
「そりゃねえよ!なんもつかえねえってのか!?」
精々俺の後ろに乗せてやるくらいしか出来ない。
あからさまに気落ちしているから申し訳ないのだが、元親に乗れるとしたら自転車くらいか。
「じてんしゃ…?」
『服買い終わったら見に行ってみるか?』
からくりと呼ぶにはかなり無理がありそうだが、一応。
まあ駄目で元々ってやつだな。
『人力で馬より遅いような代物だから期待はするなよ』
「なんだかたよりねえなぁ…。だが、よろしくたのむぜ!」
にかっと音が聞こえそうな顔をする。
随分とさわやかに笑うもんだと思いながら相槌を打っていると、音も無く目の前に何かが出現した。
「…ふうま!!」
隠れる空間があるとは思えないのに(そもそも隠れる必要がないのだが)何処から現れたのか見当もつかない。
それだけ風魔の身体能力が高いという事なのか。
『決まったのか?』
「……」
頷く。確かに佐助の言う通り話すことは出来ないらしい。
『片倉が来たらここで待つように伝えてくれるか』
「おうよ、まかせな!」
動き回るなよと念を押してからベンチに元親を残し、風魔の案内で店に向かう。
まさかそこで同じ物だけを複数渡されるとは思わなかったが。
『……そんなにこれが気に入ったのか?』
「……?」
なんとなくだが不思議そうな顔をしている気がする。あくまでなんとなくだが。
『同じ服だけだろ…?』
上も下も下着も靴下も全て一種類ずつしかない。
しかもほぼ黒一色。それも今着ているのと殆ど違いがない物ばかりだ。
「…………?」
質問の意味が分からないのか風魔は俺を見上げてずっと同じ状態で固まったまま。
そしてふと、あることに思い至る。
『もしかして違いが分からないのか?』
頷く。
『分からないから選べない?』
頷く。
そういえば風魔は忍だったか。動きやすくて目立たなけりゃ何でもいいのかも知れない。話せないなら人に紛れての仕事もないだろうしな。
『…俺が選ぶ服でいいか?』
「…!」
ここでは寧ろ黒尽くめの方が目立つ。そう思って聞けば、今までにない程しっかりと力強く肯かれた。
『…こんなもんか』
暗めの色で揃えれば、風魔にとっても問題はなかったらしく特に嫌がられたりはしなかった。
会計を済ませればさっと紙袋に手を伸ばしてくる。
『持てるか?』
「……」
頷くので手渡すとぎゅっと両手で胸に抱える。そのままぺこりと頭を下げる仕草が妙に可愛らしい。
「…!!」
つい頭に手が伸びてしまう。最近はもう開き直ってしまった癖だが、風魔は兎も角片倉を撫でたら流石にまずそうだな。
『戻るか』
拒否もされなかったのでそのまま流し、頷く風魔を確認してから、元親の待つベンチへと踵を返す。
思った以上に時間がかかったから既に片倉もいるかも知れない。
同じ忍でも佐助とは大分違いがありそうだと、何だかしみじみと感じてしまった。
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