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『辞書がややこしい…?』

そう言って来たのは元就。
半兵衛と揃って読書が気に入ったのはいいが、時々知らない単語があると言うので辞書を渡しておいたのだが。

「なにゆえこんな並びなのだ」

『………』

もしかして戦国時代はいろはか?
とりあえずあいうえお順ではないのかもしれない。

とはいえ、それは流石に俺にはどうにも出来ない事だ。

『…あー、一覧にするから、それで勘弁してくれ』

いいかと押せば、仕方がないと頷いてくれる。初日は我が儘かと思ったが、存外聞き分けが良い相手だ。
智将なだけあって限界の見極めが早いのかもしれない。


A4の印刷用紙に線をつけ、升目状に区切っていく。
一音につき二種類の書体を書いているのは楷書の読めない相手への配慮である。今二人が読んでいるのは俺用の術や卦の本なのだが、古い書物はそれだけなのだ。ただ読める物がそれしかないというだけで、実際読んで面白いものでもないだろう。
これで他の本も読めるようになれば少しは楽しいかもしれない。

そう思って書いていただけなのだが。

「たかむこは字がうまいのだな」

横から覗いていた元就が感心したように告げてくれる。

「これらはよみづらい形だが、たかむこがかくといくらか見やすい」

『そうか?』

「うむ。これもなにかのじゅつなのか?」

まさかそんな術はない。そう伝えれば、心底不思議そうに首を傾げている。
真面目に言っているからやけに面白い。

変な所で抜けているのか。

『まぁ、読みやすいなら何よりだ』

こみ上げる笑いを誤魔化そうと口元を隠したが、既に遅かったらしい。

「なにがおかしい」

じろり、と不満げに睨まれてしまった。

『悪い、元就の印象と発言が噛み合わなくてな』

謝るが、完全に機嫌を損ねたようだ。目線さえ返してもらえなくなってしまった。

『馬鹿にしたつもりはないんだが』

「うすら笑いでよくいうわ」

全く手厳しい。
ほっておけばいいのだろうが、それが出来ない俺はつくづく甘いと自分でも思う。
これが大人姿ならば、まだ良かったのだろうがね。



『…俺の部屋に張っておけばいいか?』

完成した表を持って立ち上がる。未だに拗ねた元就の頭に手を乗せてから、…失敗したと思った。
ついこうした撫でてしまうのだが、直後にやっと相手が大人だったことを思い出すのだ。それでは全然意味がないとわかってはいるんだが。
しかし急に引っ込める訳にもいかず、結局いつも適当にやり遂げてしまうほかないわけだ。



「…見やすいばしょにはるのだぞ」

唯一の救いは今のところ誰も怒らないという事くらいか。
今回も元就が大人な対応をしてくれたおかげでなんとか場が収まった。

遅れて立ち上がった元就に内心だけで謝りつつ、もうこの癖は直らないかもしれないと諦めそうになってしまった。












昔の文字がどんなものかよく知りません、すいません。
あいうえお順が使われだしたのがいつからかも知りません。
全て想像というか嘘でほんとすいません。調べてないです…!!

ついでに主人公はこの後、数字やら時計の見方やらも表にして張り出す事になったりします。





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