訪問一週間以内3
人数分の服を買い、最後に寄ったスーパーマーケット。買い物を終えて店を出たと思えば。
「Hey!」
またかと思う。
何十回も繰り返した問答も、戦国武将のくせに交じる英語も。
「あれはなんだ?」
指差した先を目で追う。
このやり取りもはじめに比べれば大分減ったが、言ってもまだ普通の子どもより多い気がする。
『屋台だろ』
ワゴン車を改造したようなものだか屋台は屋台だ。戦国時代にもあったろうに。
「そりゃなんとなくわかる」
『…たこ焼き。食いもんだ』
店に来た時は閉まっていたから気付かなかった。
もう自分一人で運ぶにしては多すぎる荷物がカートに積まれている。その中にはせがまれて買った菓子類もかなり入っているのだが。
「くってみたい!」
だよな…。(また食い物か)
『これから夕飯だぞ』
「だからなんだよ?」
『両方食えるのか?』
「Of course!しんぱいすんな!」
本当かよと思うが……まあ、いいか。こいつらの食べる量なんか予想もつかないからな。
仕方なく一箱買って車に戻る。
『食ってていいぞ』
先に座席に入れた伊達にビニール袋ごとたこ焼きを渡す。受け取ったそれを機嫌よく開けはじめるのを確認して、ドアを閉めた。
トランクに荷物を入れ、車内に戻る。
ドアを開けただけでソースの匂いが漂ってきた。
『美味いか?』
「かわったあじだがわるくねぇな!」
その言葉通り、膝の上に置いた箱の中身はもう半分なくなっている。
気に入ってくれたならいいがな。
『俺にも一つくれ』
「ああ?」
次に移ろうと楊枝を一つに刺したままの状態で止まる。そして、こっちを向いたかとおもえば。
何か思いついたように笑う。
「オレをなまえでよぶならいいぜ」
『‥?呼んでるだろう?』
「NO.なまえだ」
‘伊達’でなく、ってことか?
『政宗?』
「That's right!」
満面の笑みで刺した一つを突き出してくる。促されるまま口を開けたが、一体何が楽しくて男に食べさせたりするのか。
そうは思っても従ってしまうのだから手に負えないのだ。
この殿様はわがままだが可愛らしいからいけない。
『…My guest is so generous』
一国の主が名前で呼ばせてみたりな。寛大というより自由すぎるのか?
「Any complaints?」
首を振ってエンジンをかけた。聞いた本人ですら俺に不満があるなんて少しも思ってはいないのだろう。
自信あり気に笑っている。
車内の匂いを散らそうと食べ終わるのを待って窓を開けた。
『手を出すなよ…政宗』
「…OKだいすけ!」
にっこりと笑うその顔を見て、この先甘やかしてしまうだろう自分が簡単に予想できてしまった。
その事に内心だけでため息を吐く。
…既に甘いのだから、今更だとも思ったが。
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