来訪三ヶ月後4.





「…ついにこのときがきたな、サル…」

「…やっぱアンタをさけてはとおれないたたかいだよねー…」

不気味な雰囲気で始まった準決勝一試合目。
佐助と政宗のやけに低い笑い声がBGMのように部屋の中心でこだましている。
二人とも笑顔だが、目が少しも笑っていないところが気味が悪い。まして子供姿ならなおさらだ。

「だいたい、あんたのことはまえからきにいらなかったんだよ。ことあるごとにだいすけちゃんにベタベタしちゃってさー」

「きぐうだな?オレもどうかんだぜ。たかがしのびのくせにオレとだいすけのじゃまばっかりしやがって」

お互いに挑発のしあいが始まると、二人とも口が立つだけに始末が悪い。
長期戦になると踏んだのか、元親なんかはさっさと居眠りをする態勢だ。

「わがままいってだいすけちゃんをこまらせるだけのアンタにいわれたくないなぁ。むしろわがままいうかいすうがへるから、アンタがきらわれるかくりつもへるんじゃない?おれさまにかんしゃしてほしいくらいだよね!」

「Ha!ひとりじゃだいすけにかまってもらえないからって、オレをだしにつかってんじゃねーよ。すなおにうらやましいっていえたらオレからだいすけにいってやってもいいぜ!petにエサをやりわすれてるってな!!」

徐々に険悪さが増す二人の間には火花どころか稲妻でも飛び交っていそうだ。
背中のあたりに黒いオーラが見える気がして、つい腰が引けてしまう。

さっきまでの清々しい白熱した空気はどこに消えてしまったのか…。

「だいたい、さっきもぬけがけしようとしてただろ!?だいすけちゃんがかわしてくれたからよかったけど!!すこしはえんりょってもんをおぼえろよ、アンタは!!」

「ぬすみぎきとはおそれいるぜ!さすがにしのびのやることはきたねぇな!それにえんりょなんかしてたらひゃくねんたってもてにはいらねーよ!!you see!?」

「はぁー!??アンタがわざわざきこえるようにいったんでしょ!?」

次第に暴走をはじめる口論に思わず小十郎を見れば、諦めたように首を振る。しばらくは放っておくしかないようだ。

幸村に至ってはおろおろとその迫力に圧されるばかりで、とても佐助を止められそうには見えない。

「おぼえがねぇなー?だいすけにみみかきしてもらってるうちに、おまえのみみがよくなったんじゃねぇのか!!」

「なにっ…!?」

「アンタだってよくだいすけちゃんののみかけよこどりしてんだから、みならってちょっとはそのくちのわるさマシになんないわけ!?」

「…!!!」

二人ともよく見ているな。
もはやお互いしか見えていないのだろうが、今の発言に元就と小太郎がわずかに反応を見せる。

「テメェもたべさせもらったりしてんじゃねーか!」

「なにぃ!?」

「だいすけちゃんのふとんでひるねしてるくせに!」

…なんだかおかしな言い合いになってきたな。
どうでもよさそうな事を叫んでいるが、言う度に周りのみんなが少しずつ殺気立ちはじめたように感じるのは俺の気のせいだと思いたいな。

「kissしやがったのはどこのどいつだ!!?」

「なんだって…?」

「あれはねつをしんぱいしてくれたの!それより、いっしょにふろまではいったのはだれだよ!?」

「なっ…政宗さま!?」

ちなみに佐助のは額をくっつけただけで、政宗のは未遂…というか、風呂を洗ってたら政宗がふざけて入ってきただけだ。

決してやましいところがあるわけではない。念の為。


そんなことを弁解する間もなく、近くで何かが切れる音を聞いた気がする。

「…さすけ」

「え…?」

ひやりとうすら寒いような声がした。

「まさむねどのも…」

「アァ…?さなだ?」

「いまのはなしは、まことであろうか?」

「「………」」


…真っ黒い。

見事に真っ黒だ。ここからは幸村の背中しか見えないが、横でその顔を見ている元親や元就は固まっている。
まして正面の佐助と政宗は言わずもがな。

「ま、まあ…ほんとといえば、そーいえなくもないけどね…?」

慌てて佐助が取り繕うが、少々遅かったようだ。

「だいたいはちょーっとおおげさにいっただけっていうかさ!?」

「では、どこまでがほんとうなのだ?」

「Ahー…とちゅうの、ひるね…くらいだって!そうだよな、さるとび!?」

政宗も手伝って、引きつった顔のままなだめにかかる。なかなか効果は上がらないようだが…。

「…ふたりとも、そんなにぬけがけしてたのか」

「「…!!!」」

いよいよ佐助たちが凍りつく。その幸村にさっきまでの狼狽えていたような空気は欠片も無い。


それにしても普段が普段だっただけに、この幸村の豹変は予想外だった。
少しばかり険悪だった周りも毒気を抜かれるほど驚いている。
実は一番怒らせたくない相手だったかもしれないな。




結局、この後幸村を落ち着けるのに三十分程かかり、順番を決めるはずのトーナメントはすっかりなかったことにされた。




…いつもの幸村に戻ってくれてよかった。




(予想外の結末)





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