来訪一週間以内3.
軽快に走る車とは正反対に気分は重い。
家に着いてすぐに皆を集めると、その反対側に智彰と二人並んで床に座る。面識のない智彰や、新たに片倉達が増えたことには一切触れず、無言のまま頭を下げる。
兎に角まずは謝りたかった。
『皆には、本当に申し訳なかった』
「「!?」」
「ちょっ、どうしたのだいすけちゃん!?」
「なにがあったってんだよ!?」
集めた一同がそれぞれに反応する。事情を知っている片倉と風魔以外は多かれ少なかれ驚いているのだろう。
立ち上がった者がこっちに寄る前に話を続けた。
『今回の騒動の原因は、俺の一族の者にあった』
「…なに?では…」
一部の視線が斜め後方に控える智彰に集まる。それを受けて、小さく身を竦ませる気配もあった。
その視線に答えるように先を続ける。
『今、俺の後ろに居る者だ』
今度こそ全員に注目されて、半ば叫ぶように智彰が謝罪する。震える声が目の前にある床に当たって、やや聞こえづらくなっていた。
そこからは改めて俺から皆に分かり易くこの事件についての説明をし、再度管理の手落ちを詫びた。
俺の話が進むに連れ、次第に誰の声もあがらなくなり、最終的に部屋には俺の声しか残らない。
『…この末は、一族の誇りと俺の命に懸けて、全員を元の状態に戻すと誓う。その時には、我々を切り捨ててくれても構わない』
それだけの事に巻き込んだ自覚はある。何時かは対立する武将同士に、要らぬ馴れ合いさえ強いているのだから。
望むなら、こちらでの記憶も消せるように努力しよう。
『許してくれとは言えない。だが…今の約束だけは、どうか信じてほしい』
言い終われば、しんとした沈黙が部屋に満ちる。
最早他に詫びのしようもなく、土下座の姿勢のまま皆の反応を待った。
「…あたまをあげなだいすけ」
呼ばれ、一瞬躊躇ってしまったが、言われたからには上げねばなるまい。
例えこちらに合わせる顔がないとしても。
「はなしはわかった。だがゆるすまでもねぇ、おれたちはおまえをせめちゃいねえんだからな」
「そのとおりだぜ!だいすけのことはぜんめんてきにしんようしてんだ。はなっからしんぱいなんかしちゃいねーよ!」
『…元親、政宗』
「わかったらさっさと座りなおさんか。そのようなかっこうはうしろの者だけで十分よ」
『元就…』
ソファに腰掛ける三人が、口々にそう言ってくれる。
「はじめはびっくりしたけど、こっちもけっこうたのしいよ?だいすけちゃんにもあえたし!」
「そうでござる!だいすけどのにあえたのはまさに、ぼうがいのよろこびでありましたぞ!!」
笑う佐助と幸村。
呆然と眺めていると、立った二人の脇から半兵衛が一歩進み出る。
「それよりも、うしろの彼はどうする気なんだい?」
「同感だ。あんたよりそいつの方が原因なんだしな」
少し後ろに立っていた片倉もその発言に同意する。眉間のシワが険しくなったようだ。
『智彰には元の場所に戻る方法を見つけさせる。能力だけは確かだからな』
その間は他の者――俊基だが――の家で生活を管理させるつもりでいる。そうでなければどうせまた部屋が汚れて、同じ事を繰り返しかねない。
「それならいい。あんたについては政宗様もああ言ってるしな」
半兵衛も、端の方にいる風魔も、他の皆もそれぞれに頷いてくれていた。
それを見て、自然ともう一度頭が下がる。
…心底有り難いと思う。いくら感謝してもしたりない程だ。
そう感じながら、今度は智彰に向き直る。
『…聞こえたと思うが、そういう事だ。今から俊基を呼ぶから、面倒を見てもらえ』
「…えっ!?や…だ……じゃないです…」
言いかける阿呆を睨みつければ、すぐに息を飲み言い直す。押しの強いあの家とこいつが合わないのは承知しているが、知ったことか。
『一時、処分は留め置いてやる。皆の恩情に感謝しろよ』
この男の呪術は無駄に強力な上、今回は失敗して更に滅茶苦茶だ。特別厄介だが俊基も居れば多少は(本当に多少だが)違うだろう。
後はあの家のおばさんが掃除してくれるよう頼んでおけばいい。
『年齢を戻すのは俺がやる。お前はそれだけに集中しろ』
「……はい…」
いいなと念を押せば、観念したようにうなだれる。流石に反省したようだ。
しばらくして、智彰は呼び出した俊基に半分蹴飛ばされながら車に乗せられていった。
(後は行動あるのみです)
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