来訪直後2.
「…で?」
ようやく団子をバラし、子供らが一通り喚くのを聞いた後。
改めて俺達はそいつらを座らせた。
小学生程度の子供ばかりとはいえ、六人もいればなかなか壮観だ。
「本当は大人なお前らのお名前は?」
俺を庇うように立つ俊基が問い掛ける。一見呆れたような態度だが、未だに万一を警戒しているらしい。
「…………」
「…………」
広がる沈黙。
座った子ども達と俊基の間になぜか火花が見えるのは幻覚だろうか。
腹の探り合いというより俺にはただの睨み合いにしか見えない。
「…チッ、大輔、なんか分かったか?」
『駄目だ。俺にも見えない』
俺達は先見の一族だ。
目を凝らせば相手の未来を予知できる。まして直系の俺が本気で視ようとすれば、素性から過去未来にいたるまで分からない事はないはずなのだ。
しかしどういう訳かこいつらに限って名前一つ知ることが出来ない。
「え、まじで?」
頷く。こんなことは今まで一度もなかった。視るだけでここまで疲れたのも久しぶりなくらいだ。これ以上はきちんとした手順を踏まないとまずい。
「そんなに怪しいおチビなのかよ」
俊基の気配が鋭くなり、瞬間的に場が色めき立つ。
『…それほど危険はない』
だからその危ない気配を引っ込めてくれ。気の早い奴らは既に武器に手をかけてるから。
『防御型…抗撃型の呪みてぇなもんだ。こっちがつつかなけりゃとりあえず問題はない』
「本当かよ?」
『それくらいは分かる。…ついでに、呪ってのは例えだからな。似てるだけだ』
わかっているとは言っていたが、それでも念を押しておかないとまずい気がした。こいつは分かっていても冗談で解呪を使いそうで困る。
呪術には正しい解除方法を当てないと術者も被者も無事には済まないからな。
『…それで、だ。まあ結局は直に聞くのが一番早いだろうな』
改めて眺めて見ると全くカラフルなのが集まったものだ。一部相談をしている奴らもいたが、すぐに全員から見返される。
まだ大分警戒が強い。話を聞ける雰囲気じゃないか?構わなすぎたろうか。
俊基のせいな気もしない訳じゃないが。
『うん…そうだな、俺の質問に答えてくれたら、一問につき一問お前たちの質問にも答える。どうだ?』
こちらの最初の質問は名前。つまり名乗るだけで一人一つ質問ができる。
そこまで話すとすぐに一人が手を挙げた。
「さなだゆきむらでござる!」
「ちょっ、ダンナ!」
勢いよく立ち上がったのは赤い子ども。隣の迷彩服が引き止めるが全くの無視でこっちを見ている。
それにしても、‘真田幸村’とは。
『…真田。質問は?』
「ここがいったいどこなのかおしえていただきたい!」
これで標準仕様なのか知らないがやけにうるさい。
だがとりあえずは聞き取りやすいと思っておこう。怯えて喋らなくなるよりはずっとマシだ。
「ここは日本の東京のA区。OK?」
『茶化すなよ』
俊基から急に並べられた単語に、真田はぽかんと口を開けている。頭の上も疑問符でいっぱい。
仕方なく紙とペンを用意してざっと地図を描く。
『これが日本、ここが東京、A区はこの辺り』
‘真田幸村’なら流石に日本はわかるだろう。紙を渡してやれば後ろから覗き込んでいる他の面々も一様に驚いている。
『他には』
「つぎはオレだ」
さっと手が挙がる。今度は青い服で片目の子供。
「だてまさむね、だ。かさねてきくが…ここは、どこだ?」
本当に見た目と台詞が合わねえな。中身が大人ってのはどうやら嘘じゃなさそうだ。
『今の段階では何とも言い難いが、恐らくは皆にとっての未来か、全く関係の無い異世界のどちらかだと思う』
「竹中半兵衛。なら、どうしたらそれをとくていできる?」
こちらの歴史にも戦国時代があるから面倒な訳だ。だから二つの世界に相違点が見つかれば話は早い。
なので、とりあえず先程の地図に勢力図から書いてもらう。
「…てかこんな現代まじりの武将がオレらの歴史とかやだ」
まあ、髪型も髷ですらないしな…。
だが万が一って事もある。
だから、渡された地図を見た時は正直ほっとした。
「信長と秀吉が並立しちゃってんじゃん」
覗き込んできた俊基も言った通り、こっちの歴史とは明らかに違った。
『…決まりだな。完全に異なる世界に来たと思ってくれ』
「ならば、われらの世界はどうなっている」
緑の育ちの良さそうな子供が言う。
「名乗り忘れてるぜ」
見下すような俊基と暫し睨み合っていたが、ややあって毛利元就と名乗った。
…但し、俺の方だけを向いて。
『それは、調べてみない事には何とも言えない』
「それより、おれたちはかえれるのか?」
長宗我部元親と言うらしい、こちらも眼帯をつけた子供が眉をしかめて聞いてくる。
『それも調べてみないとわからない』
「アンタさっきからしらべるっていってるけどさ、どうやってしらべるつもりなのよ?あ、おれさまはさるとびさすけね」
さっき真田を諫めようとした奴だ。笑ってはいるが一番警戒が強いように見えるけどな。
『俺達は卦…占いを生業の一つとしているから、そう言ったもので調べるな』
「…そんなんしんじろって?」
まあ、普通の反応だろうな。
さて、何から話せば良いだろうか…。
「別にお前らが信じる必要なんかねーし」
「てめ…!」
「なんだと?!」
そう俺が考え込んだ一瞬の間に、説明なんか時間の無駄だと言い切る俊基。
何だってこいつはこう、敵を作りたがるのか。
「面倒くせぇし、さっさと縛呪して術に入っちまえばいいじゃん」
『俊基』
「大輔が親切に教えてやることないね」
瞬間、何かが弾かれるような音。
床に落ちた金属が…手裏剣か?弾いたのは位置的に俊基の結界だろう。
「!!?」
「ほらな?躾もなってねぇ」
投げた猿飛を中心に、子供達が一斉に立ち上がった。警戒というか殺気というか…とにかく非友好的過ぎる。
…良いからとにかく止めてくれ。
俺だってこれ以上の面倒なんざ御免だぜ。
『いい加減にしろよ』
とりあえず子供達と離そうと術の準備を頼んだが、対峙したまま動こうとしない。
『俊基』
「……縛呪は?」
『いらねえ。早く行け』
渋々といった感じではあるが何とか部屋から出ていかせる。
これで少しは落ち着くだろうか。
…というか、むしろ落ち着いてくれ。
『…悪かったな。だが、まあこういう事だ』
立ったままの皆を座らせ、結界と術の説明を改めて聞かせる。大人しく聞いてくれてはいたものの、話が終わっても何の反応も見られない。
目を閉じ、顔を伏せて思案する者、相談する者、只こっちを見据える者。
皆一様に静かなことだけが共通している。
「おい」
見据えていた一人、伊達だ。
「まずはこいつらのしつもんにこたえろよ。それまでははなしをしんじるもしんじないもねぇ」
とにかく術を見たいという事か。
ひらがなの癖にやけに挑発的な目を向けてくれる。
『わかった。他には?』
何かあるかと言えば。
なんとも不敵に笑いやがった。子供にはまったく似合わないはずの顔が似合っているから不思議なもんだ。
「そろそろアンタのなまえもおしえろよ。Fairじゃねぇだろ?」
目の前で上がる口角を見て
あまりに今更すぎることを指摘されて、自分でも思わず笑ってしまった。
(自己紹介からはじめましょう)
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