来訪直前






“一週間後になんかありそう”



そんなとんでもなくアバウトな予見をされてから、今日が丁度その一週間目だ。


「今日だよなー異変が起きる日」

『だからお前を呼んだんだろうが』

リビングのソファに腰掛けながら、肘掛けに乗せた手でこめかみをさする。早朝から、怪しい予見をした本人も家に呼びつけ、揃って大学を自主休講して待ち構えているのだ。

『俊基の卦が読めてりゃな』

いくら俺の能力が高くても自分に起こる未来までは視ることができない。名指しで先見をされた今回は、当然その範疇で。
だからせめて俊基の占いに頼りたかったのだが。

「だってすげー妨害で読み取れなかったんだからしょうがないじゃん、て、もーこれ十回くらい言ったし」

夢で予見をした本人、俊基が隣で口を尖らせる。分家にしては異例の能力を持つこいつに何度も卦をさせたが、結局異変の正体は判らず終い。
そんな大層な災厄を(できる限りはしたとは言え)ほぼ無策の状態で待たないといけないなんて無謀もいいところだ。
はっきり言って最悪な気分だが、既に諦めが勝りつつある。ちらりと時計を確認し、起きてから何度目になるか分からないため息を吐いた。
残念な事に、まだまだ今日は始まったばかりなのだ。

そう、思った矢先

「…大輔」

『来たな』

警戒して俺の側に立つ俊基。それを意識に入れながら、自分もソファに腰掛けたまま歪み始めた空間を凝視する。
氣の歪みに反応して、怪異を閉じ込める束縛の呪も発動を始めた。あわよくばこの程度で防げれば良いのだが。

流石にそれは甘すぎるかとも思った瞬間、強烈な破裂音が耳を打つ。同時に広がる、視線を遮るような毒々しい煙の幕。次いで何かが落ちる断続的な音と悲鳴。

「……………」

『…………』

「………」

『……』


…なんとなく、危険を感じない。
あくまでもなんとなく。明確な理由はないのだが。
しかし正直、自分の警戒態勢が解かれてしまうのを止められない。


「……ちょっと、オレの予想と違ったかも…」

『……ああ』

振り向いた俊基と顔を見合わせる。きっと自分も似たような間抜けな顔をしているんだろう。

早く煙が消えてほしいような、ほしくないような。こんな微妙な気分になる災厄なんて人生の中で初めて遭う。
もしかすると、予想通りに警戒するような怪異の方が楽だったのではないか。

そんな確信に近い予感がして、俺は不覚にも現実から目を逸らしたいと思ってしまっていた。




(いらっしゃい現代へ)





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