ひとでなしダーリン





大輔と付き合い始めて一年。

今回で三回目の浮気。

否、たぶん本当はもっとずっと多いと思うけど、発覚したのがこれで三度目だというだけで。

『………』

「………」

辺りを占める沈黙で息苦しい。
なんで責める方の自分がそんな思いをしてるのかわからないけど。

『(大輔ちゃん…本当は何人くらい相手にしてんだろ…)』

治療だとわかってはいるが、理解は出来ても納得できない。正直に言えば、大輔が自分以外と話すのも嫌なくらいだというのに。

…だからこそ、大輔は自分が気づかないように配慮しているのだろうけれども。
その気遣いという名の工作をたまにとは言え見抜いてしまう忍の性が恨めしい。

いっそ完璧に気づかなかったら、少しはましかも知れないと思った事が無いわけではない。

『(…まぁね、それはそれで嫌なんだけど…さ)』

ぐらぐらと揺れる思考の中で、そっと大輔を盗み見る。
向かい合った正面で座るその姿が、なんだか普段と変わらないように見えてしまって不安になった。

だってもし、自分が怒っていてもいなくても、全然気にしてもらえていなかったら悲しすぎる。

『(もう少しくらい慌てたって、罰は当たらないんじゃないの?)』

仮にも恋人に浮気がばれたというのに。

大輔も自分と同じ気分を味わって見れば良いのだ。そうしたら少しはこの人の考え方も変わるかも知れないと思う。

『(…でも大輔ちゃん、俺様が浮気してやるって言っても、普通にいいよって、言うんだよね…)』

少なくとも、前にそう言った時はそう言われた。とっさに出てしまっただけだったのに、一言も止めてくれなくて。
その後こっそり泣いてしまった事まではっきりと覚えている。

『(やっぱり俺様、ただの治療対象なのかな…)』

だとしたら、どうしようもなく悲しい。
全く報われないのなら、早めに諦めた方がいいのだろうか。

そんな落下していくばかりの気持ちと思考。だがそれをなんとか拾い上げ、無理矢理にでも奮い立たせて前を向かせる。

『(…もう一度だけ、聞いてみよう)』

それでも何の手応えもなかったら、今度こそ本気で諦めよう。
その後で本当に別の相手でもなんでも見つけてから、大輔のことを忘れたって遅くはないはずだ。

だから、もう一度くらい、確かめてからでも遅くはない、よね…?

『…大輔ちゃんがそんななら、俺様だって、浮気するよ…?それでもいいの?』

精一杯強がって絞り出した声は、思った以上に感情が伴われていなかった。
本当に怒っているようなそれに、一瞬自分の方がびっくりしてしまう。

気まずい沈黙が広がっていく。


「…好きにしな」

『!!』

告げられた言葉に、打ちのめされる。
微かな期待も裏切られて声も出ない。
喉が詰まったみたいになって、目頭が熱くて、また泣いてしまうかと思った時。

「……して欲しくはねえが」

『え…?』

ぽつりぽつりと漏らされる言葉に、思わず涙も引っ込んでいた。

「俺は浮気なんかしてもらいたかないが、偉そうに止められる立場じゃねえしな…」

だから佐助の好きにしたら良いと、なんとも言い難い、困ったような顔で呟く。
よく見れば、ちゃんと大輔は自分を正面から見ていてくれていて。

『…大輔ちゃんは…俺様に浮気、してほしくないの…?』

「ない。好きな奴に浮気してほしいわけないだろう」

ばつが悪そうに眉尻を下げて、笑う。

今、好きな奴と言われた気がする…。

『…自分はするくせに』

「悪い…」

治療だとはわかっているけれど、本当はどこかで不安だったのだ。
一瞬でも大輔の気が向いてしまうかもしれないとか、そのまま本気になってしまうんじゃないか、とか。

『そういうのは…ちゃんと言ってくれなきゃ、わかんないよ』

「悪い」

そればっかりと笑えば、ちょっとだけホッとしたような顔が見れたから、もうそれだけで良いかと思ってしまった。

『…今回も、その次も、これから先もずっとずっと、全部許してあげる』

俺様の答えに、珍しく驚いた大輔に向かって、これ以上ないくらいにっこり笑顔を作って見せる。

『でも、そのかわりずっと俺様を一番優先して。俺様を一番好きでいるって言ってよ』

同情や優しさはともかく、他の相手には愛情の一欠片も渡さないでほしい。愛情だけは、自分以外には向けないで。
それが俺様に出来る最大限の譲歩ってやつだよ。

『今は嘘でもいいから』

「今は、嘘じゃない」

そう言えば、すぐに返事が返ってくる。
まだしばらく、大輔は苦笑いのままらしいけど。

『じゃあ、大輔ちゃん俺様のこと、好き?』

「好きだ」

『なら、いいよ。明日も、そう言わせてみせるから』

ずっと毎日、そう言わせてみせるから。

大輔の迷いのない答えが嬉しくて、そんな舞い上がった考えまで出てくるのは、わりと予想外だったけども。





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