節分小話





「なーにしてんの?」


言葉と同時に飛びついてくる。

衝撃を背中で受けながら、その突然の登場にも驚かず大輔は言う。


『祓い』


「はらい??」


『節分で丁度良かったからな』


立春の前に厄を祓い、難を追う。
そうして高向は周囲の者を守るのだ。

いくら統治が良く、武田領は平和だと言っても、やはりここは戦国の世である。
氣の乱れはかつて大輔のいた現代の比ではない。


『この矢で歪みを散らすのさ』


背中に佐助をくっつけたまま、軽々と大弓の弦をひく。


「節分だから、柊?」


頷いて、大輔はパッと手をはなす。柊の枝と葉からできた矢は、綺麗な弧を描いて空間に消えて行った。

それを見て佐助が感嘆の声を洩らす。

すぐにまた大輔は二本目を弓につがえるが、それでも佐助は離れようとはしない。


「弓も?」


『弓は桃』


桃には霊力があり、古来より神木として扱われているのだとか。

そんな特殊なものを、いつの間に用意していたのやら。


「こういうのって、こっちの高向もやってるの?」


『…さあ』


大輔のいた世界では当然一族は祓いの類いを行うが、こちらの世界でするかどうかは定かではない。

しかしまあ、おそらくはしているのではないだろうか、というのが大輔の見解ではある。

高向があり、同じように陰陽を司っているのなら、それほど元の世界と違いがあるとも思えないのだ。


「なら大輔ちゃんがやらなくたっていいんじゃない?」


任せてしまえばいいのにと、少し不満げに口を尖らす。

その声にほんのわずか動作を止めたものの、すぐにまた大輔は矢を放つ。


「なんでわざわざ大輔ちゃんがやるのさ」


『…今日は聞いてばかりだな?』


どうしたのかと聞けば、回された腕の力が強くなる。
大輔の背中に、こめかみを押し付けるようにしてしがみついてきた。


「だって…かまってくれないじゃん」


拗ねるような声に、出かけた笑いを噛み殺す。

三本目の矢を構えながら、なるべく平静を装って返事をした。


『佐助は歪みに落ちただろう』


「…へ?」

『また異世界に行きたいのか?』


これだけの数“歪み”があれば、再び誰かが世界の垣根を超えかねない。

その誰かが佐助でないと、どうしたら言い切れるというのか。


『俺はわざわざ、行かせたくはないが』


「そんなの…俺様だってごめんだよ!!」


二度はいらない経験だと叫ぶ。

同時に、ヒュンと音をたてて矢が消えた。


『なら、穴は早めに塞いだ方が良いだろう?』


三本目の矢を放った後、慌てて離れた佐助に向いて、大輔がちらりと目を細めてみせた。


『佐助は案外、惚れっぽいところがあるしな』


異世界に行く度、そこの高向を好きになられてはたまらない。

そう告げれば、


「!!…大輔ちゃんのバカ!」


そう言って、真っ赤な顔で逃げて行った。





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