シクラメン





世間ではクリスマスだのイブだのとせいぜい騒いでいるけれど、恋人もいない自分にとっては生憎ただの平日なだけ。
むしろ働きはじめた今年は年末の月末ってやつはこんなにも忙しいのかと思い知らされるばっかり。

おまけに今日はだめ押しのように朝から通常仕事やら特番やらの予定がぎっちりでこっそりマネージャーを恨んだり恨まなかったりするくらい。
だって休憩は移動の車で取るような繁盛っぷりは有り難いか有り難くないかと言われたらそりゃあ当然ありがたいんだけど、健全な若者としてはやっぱりちょっとは虚しくもあるわけで。

悔しいから少し前に撮ったイルミネーションの写真を添付して大輔さんにメールを打つ。
ちょっとだけクリスマスの雰囲気を味わいたかったのと、返信が来たらささやかな自分プレゼントになるから。
…と、言い訳しながら。


でも。


いつもならわりと早くもらえる返信は待てど暮らせど一向に返って来る気配がない。
嫌われたかとも思ったが、それ以上にもしかしてものすごく忙しい時にメールしてしまったのではと嫌な予感が頭を過ぎる。

なにせ自分以上に多忙な大輔さん。
今日だって普通に仕事は山場かもしれないし、ずっと収録で休憩もとれないくらいなのかも。
それか、もしかしたら奇跡的に休暇がとれて大切な人と穏やかな時間を過ごしているとか…?

それなのにただの顔見知りがあんな脳天気なメールを送ってしまったから気を悪くさせたのかもしれない。

じわじわと広がる悪い想像で勝手に焦っている自分は思った以上に滑稽だけど、想像の中の出来事は自分にとっては間違いなく一大事なんだから仕方がない。
どうにもこうにもそわそわ落ち着かなくなってきた自分を呼ぶマネージャーの声。
周りにいたメンバーがぞろぞろと車を出て行く中、鞄に放りかけた携帯がふるえ出す。
キラリと光る文字盤には待ちに待った大輔さんの名前が映ってた。

慌てて開いた画面でメール受信のマークを選べば表示されたのはそりゃあ綺麗なイルミネーションの添付画像。

ただし本文はなし。タイトルはRe。
写真の他にはなんの情報も読み取れない。

すぐさま返信しようと打ちかけたところで再度聞こえるマネージャーの声。
ぶっちゃけそれだけなら聞こえない振りもできたんだけど、声どころか戻ってきたマネージャーに腕を引かれて連れ出され。

結局作りかけたメールを送信できないまま送り込まれた明るいスタジオ。
止まる間もなく衣装にだけ着替えて放り込まれて相変わらず忙しないもんだと思っていたら、自分たちの後ろから入って来た共演者の中に目を疑うようなあの人の姿が。


「大輔さんも一緒だったんですね」


挨拶と称して駆け寄って素直にそう驚いたと言えば、にっこりと優しく笑われた。


「さっきは綺麗なメールをありがとう」


嬉しかったよと言われてしまえばもうにやける顔を引き締める術なんてあるわけなくて。


「返信が中途半端になって悪かったな。でも会う前に返したかったからさ」


聞けばどうやらあの写真は今日撮ったものらしく。
喜ばそうと自分の為にわざわざ用意してくれたのか。と、自分はうぬぼれても良いんだろうか。否、そんなことをしたら二度と戻って来れない気がする。
どこからかってのは自分でもよくわからないけれど。

それでも勝手に回る思考は欲望に忠実でまったくもって手に負えない。
忙しいなか綺麗なイルミネーションを探しに行ってくれたんだろうかとか出番ぎりぎりまで時間を使ってくれたから本文も件名もなかったのかなとか返信にそんなに気を遣ってくれるなんてもしかして、とかその他もろもろもろもろ…

だけどとりあえずあの写真が自分のために用意してもらえた物であるのは間違いないらしい。



年末の月末でただの平日に違いないはずの今日は自分でも気付かないうちにただの平日ではなくなっていたワケで。

これはもうクリスマスは確かに特別な日だと認めざるをえないね。
と、鬼のダンナに言ったらノロケるなと呆れられた。





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