喘月
陰りがちな月光と時たま吹く生暖かな風。
お世辞にも気分の良いとは言えない夜。
そんな夜に何故か俺は屋敷の外にいるわけだが、別に好きこのんでこんな夜を選んだ訳じゃない。
たまたま今日がこんな夜だったというだけで。
「…!」
単に先見に従ったら、今夜が目的の日だっただけだ。
「大輔ちゃん?」
俺を見つけた佐助が空の上からするりと目の前に降りてくる。暗いばかりの視界の中に鮮やかな橙色が入ってくるのは綺麗で良い。
「なんでこんな所に…」
「佐助に会いたくなったからさ」
そう言えば、みなまで言わずとも分かってくれたらしい。つくづく便利な能力だと、羨ましげに笑われた。
「大輔ちゃんから会いに来てくれるなんて珍しい」
明日は雪かと揶揄われたが、俺にだってそんな日はある。まぁ確かに自分からはあまり会いに行けないけどよ。
「何かあったの?」
「いや、特には何も」
というより、俺の方は特に何も。
どちらかといえば何かあったのは佐助の方で。
「理由がないと駄目なのか?」
「そんなことないけど…さ」
うつむき気味で曖昧に笑う顔。困ったようなそれに内心俺も苦笑する。
本当は、佐助が渋る理由も知っている。
佐助が珍しいことをされても普段ほど喜んではいないのも、こんな微妙な表情で向かい合っている理由も。
というか、そもそもそれが会いに来た理由なんだが。
…敢えては言わないけれども。
「傍に行っても?」
数歩分離れた自分との立ち位置。間に置かれたそれが佐助の最後の防衛線とわかっていて聞くんだから、俺も大概意地が悪いよな。
「…だめって言ったら?」
「まぁ、それでも行くかな」
じゃあ聞かないでと苦笑する。
たった二歩分の距離を詰めれば、ほんの僅か、微かに感じる不自然な匂い。恐らくそれが今日の任務の名残なんだろう。
「おかえり」
近付いたら一瞬だけ強張る身体。それをキスで宥めて抱え込む。
抱き締めてキスしてまた抱き締めて。
軽く逃げかける相手を何度でも手を伸ばして引き寄せる。
「……ずるい」
暫くそうして構っていれば、腕の中から不満気な声が上がって。
「何が」
「…だって本当は俺様からしたいのに」
そんなことを言っても、未だに腕一つ回さないくせにな。
「たまには良いだろ」
「本当は知っててやってるんでしょ」
それには敢えて答えないけれども、つまりはそれが答えな訳で。
何しろ佐助は臆病なのだ。
今日のように後味の悪いような嫌な任務があった後は絶対俺に触らない。それどころか会いにも来ない。
そういう滅入った時ほど俺達一族が役に立つんだが。
頭ではわかっているくせに変なところで不器用なのが本当、放っておけない。
というか、放っておきたくない。
そんなことで俺は嫌わないし、佐助だって汚れやしないんだがね。
「また俺も迎えに来るよ」
オレンジ色の髪を梳くように撫でて言い聞かせる。
もう何回こうして迎えに来たかはわからないが、今度こそ佐助が自分から甘えに来ることを期待して。
「……ずるい」
「知ってる」
卑怯な能力だとうなる佐助にもう一度軽くキスをして、やっと今日も腕を回させることに成功した。
…相変わらずだらだらした文書で(´・ω・`)
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