ジャスミン





「猿飛君」


「!、高向さん!」


高向さんに例の一言を言われてしばらく。
何度も差し入れに行くのを止めようと思ったけど、鬼の旦那に絶対行っとけって押されてまだ続けてる。
なんか、今止めたらもったいないからって力説されて、正直よくわかんなかったけど、やけに迫力あったしさ。


「お疲れさまです!」


「お疲れ。俺にまで差し入れありがとうな」


いつも美味しくて嬉しいと、そう言ってにこっと笑う高向さん。
…あぁーもう、今日も格好いいっ…!
ていうか貴方が本命で独眼竜がついでですから!


「また次もオススメのやつ持ってきますから、期待しといてくださいね!」


気まずいけど、この笑顔見たさにやっぱり来ちゃう俺様って単純…。そんなこと言われたら、笑顔で返しちゃうにきまってるし。
つまんない訂正なんかできなくなっちゃうよ。
ほんとは、俺様べつにヒマじゃないんですよって言いたいのにさ。




…結局、あの後も高向さんの態度に変化はなくて、やっぱりあれは嫌味でもなんでもなかったってわかったし、危惧したような眼帯野郎を見直したって感じでもない。

鬼の旦那の言う通り、特別なことじゃなかったのはわかったけど…でもやっぱりなんか、フクザツ!


「あ」


「え?」


とりあえずにやけたり顔が赤くなったりする前に離れようと、ほどほどで切り上げるつもりだったんだけど。


「CM見たよ」


背中を向けた俺様を高向さんが呼び止めて。
慌てて振り返った時、予想以上に距離が近くて心臓が止まるかと思った。


「雑誌も。ラジオもやってるんだって?」


「あ…はい!やらせてもらってます…けど……」


この流れ…もしかしてなんて思っちゃってもいいの…!?


「悪かった。この前、暇なのかなんて言って。忙しい中、来てたのにな」


…!!!


「実は、もう来てくれないかと思って心配してたんだが…謝れて良かった」


「そんなっ…だ、だって高向さんに比べたらやっぱり俺さ…っ、俺なんて全然ヒマだし…むしろ俺の方こそ、来すぎてご迷惑だったかなって…!」


っ、鬼の旦那!あんたの言うこと聞いてよかった!
やっぱり高向さんは信じていい人だったよ!俺様の目に狂いはなかった!

あぁでもやっぱりいざ言われると照れるっていうか緊張するっていうか焦るっていうか…恐縮する!
言ってほしかったけど言われるとって、俺様性格面倒くさすぎるでしょ!自分でも呆れる…!一人でテンパってるしバカみたい。


「この後は、暇?」


気持ちわるいくらい動揺しながら否定する俺様に、そう言って高向さんはまた笑う。
そのまま、忙しいのは知ってるけどって続けて、苦笑いになった高向さんに慌てて暇だと頷いた。
ここで予定があるなんて、そんなの誰が言うんだよ?


「お詫びに奢りたいんだが、良ければ食事でも行かないか?」


……なんて言うか…本当にうまく行きすぎでいっそ不安になるってこれ!
本当にいいの!?夢じゃないよね!?


俺様もう一生鬼の旦那のアドバイスだけは疑わない!





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