好きな人【元親】
目を覚ます。
ぼやけた頭で確認したが、どうやら外はまだ暗いようだ。
横を向けばまだ眠っている大輔が。
思わずにやけちまう。こればっかりは何度経験しても慣れやしない。
規則正しく呼吸を繰り返すのを飽きもせずに堪能する。大輔をまじまじと見られるなんてこんな時くらいのものだ。
普段ならここまで気兼ねなくはみれないし、恥ずかしくないとも言いきれねえからな。
『(……かっこいい、よなぁ)』
見とれちまう。目が離せない。
ただバカみてえに綺麗ってわけじゃない。たしかに整っちゃいるんだが、大輔の面は見せ物っぽくないんだよ。
なんか、格好が良いとしかあらわせねえな。
要は男前なんだよ性格も顔も。
もちろん体も。しっかり筋肉がついてっからなんつーか安心感がある。アニキなんて呼ばれてる俺が言うのもなんだが、こいつには無条件に頼りたくなるから不思議だぜ。
まあ、とにかく惚れ惚れするような良い男なんだよ大輔はさ。
何より目が合っただけでも心臓に悪いっくらいの相手だ。他のヤツらもほっておいちゃくれねえ。追っ払うだけで日が終わるなんてザラなこと。
その分昨夜のように独占できた時の感動も、ひとしおっちゃあひとしおだがよ…。
でも、やっぱりずっと側にいてほしいってのが本音だぜ。
『(…目ぇ、開けねえかな)』
日が高くなればまた邪魔者を追っ払うので忙しくなっちまう。
こんな風にゆっくりなんてできないんだからさ。
『(俺を見ろよ…)』
せめて今だけでいいから、なんて女々しいことを考えながら手を伸ばす。こっちを向いた大輔の眉間をそおっと撫でて、軽く押して、それでこの目が開けばいいと思いながら。
『………』
だが、大輔は目を覚ます気配すら見せやしない。
大輔なら起きてくれるんじゃないかと期待した分、自分でも意外な程がっかりしちまった。
だがこれ以上無理に起こすのもマズい気がして、仕方なく手を布団に戻す。
せめて寄ろうと距離を詰めて、腕に触れた瞬間。
「…元親」
胸に落としていた視線を慌てて戻す。
「朝、早いな…」
『大輔…』
ぱちりと開いた目の中に、しっかり自分が映っていた。
それだけで嬉しくて眉が下がった自覚がある。
とりあえずおはようと言って抱きついてみたが、それだけでなんかすげぇ気分がいい。
「…なあ」
『なんだよ?』
ほんの一瞬、常よりもじっと眺められて、その視線にどきりとした。
今のだけでも顔に血が集まったような気がする。
「今かなり物欲しそうな顔してるんだが、わかってるか?」
言いながら、ゆっくり覆い被さられて、腕の内に閉じ込められた。だが、俺はその動きに驚くでなく、なによりその顔に釘付けになる。
困ったような楽しそうな、男の顔。
尾骨の上がぞくぞくしてくる。
こいつが俺のものになりゃあいいのに。
『…お前が、ふらふらしてっからわりぃんだ』
「そいつは申し訳ねえな」
本気で困ったように笑う。
なんだってこんな色男を好きになっちまったんだかな。
『俺だけ見てりゃあいいのによぅ』
顔をさわって目に触れる。山ほど誑すひでぇ目だ。
…だってのに、自分が映るだけでこうも嬉しいんじゃ世話ぁねえよ。だから始末が悪いんだ。
「今は、元親だけ見ている」
それで勘弁しろと、言われて許す俺も俺だよ。
だって大輔は大真面目で言ってんだ。しょうがねえじゃないか。
今もこいつは本当に本気で、胸の底から全員を平等に思ってやがる。
そういう奴なんだもんよ。
それだけわかってて俺が惚れたんだ。
そうだろ?
『…もうしばらく見るなら許してやるぜ』
笑って口付けられちまえばもう、俺に残った手段なんざない。
結局は、惚れちまった方の負けなのさ。
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