越後侵攻3





軍議の結果、上杉とは正攻法で戦っても大きな支障はないという結論に至った。

行軍中に他国軍の奇襲を受ける恐れもなく、主力の抜けた本拠地を狙う動きも見当たらない。それは大輔の先見、織田軍軍師の推察ともに一致した見解である。



そうした予測のもとに始められた行軍の途中、明日には目指す春日山城に到着するだろうという夜。

「上杉のヤツら、今夜は来るかなー!?」

『さて、どうだかな』

この度の軍旅は軍議でも当初から予測された通り、上杉忍軍の奇襲を受け続ける旅でもあった。

しかし厄介であると思われたそれも、大輔の正確な予見があるせいで織田軍は未だこれといった被害を受けていない。そんな安心感が嬉しいのか、普段ならば疲れるだけの奇襲戦も今度ばかりは蘭丸にとって遊びの一つらしいのだ。

『蘭丸はどう思う』

「絶対来るよ!だって今夜止めなかったら明日はもう着いちゃうじゃん!!」

あわよくば戦力を削れるかもしれない最後の好機。敵も逃がす筈はないと蘭丸は力説する。
毎夜こうして大輔の所に訪れては来るか来ないかを話しているのだ。今のところ蘭丸の正解率は五分五分でまだほとんど勘と言って構わないくらいだが、今日は自信があるらしい。

『だが奴らは連敗で被害も少なくない。明日に備えて兵力を温存するかもしれないぜ』

「そうかなぁ?…うーん…でもそれもそっか」

頭を抱えて唸りはじめる。魔王の子などと呼ばれていても近くで見れば素直なものだ。濃姫が可愛がるのも頷ける。

「でもやっぱり今日は来るって!だって大輔が起きてるじゃん!!」

同意を求めながら得意気に笑う。

『蘭丸はそんな事で判断してたのか』

「だって一番当たるしさ」

悪びれない子供の頭を撫でながらちらりと空を見た。
星はまだ上にありすぎる。

『ま…正解だ。夜明け前には来るぞ』

本当は自分で当ててほしいところだが、まだ多くは望むまいと大輔も考えなおした。

「大輔がいつも一緒ならいいのに…」

『あのな…楽しようとするなよ』

「へへ…でもそれだけじゃないよ」

ちょこちょこと近づいて胡座をかいた大輔の上に乗る。子供扱いされる事を嫌うくせに、こういう時ばかりはいいらしい。

「大輔が戻ってから信長様ずっと機嫌がいいんだ!」

『成る程?』

「それに蘭丸も大輔がいたほうががんばれるよ!」

撫でろというのか止まったいた大輔の手に強く頭を押し付けてくる。猫のような態度に笑いながらも要求通りに再開してやれば、本当に咽でも鳴らしそうな顔をして笑うのだから可愛らしい。

『…とりあえず蘭丸は少し寝な。奴らが来る前に起こしてやるから』

上杉軍の忍が来るまでにはまだ間がある。わざわざ全員で待っていてやる必要はないのだ。

「このままでもいい?」

『…ちゃんと寝るならいいぞ』

「寝る寝る!寝るよ!だからこのままがいい!!」

はしゃぎだす蘭丸を宥めつつ、体をずらして位置を決める。内心、よくこんな所で眠れると思いながら。

「えへへ…ありがとな大輔!」

『別に構わねえよ。…おやすみ蘭丸』

おやすみと返してくる蘭丸の目が閉じられる。呼吸が寝息に変わるまでにそれほど時間はかからなかった。


子供特有の温かさを腕の中に感じながら時を待つ。じれったくなるような速度でしか動かない星を目で追うほどに、大輔は自分の中に強烈な渇きが生まれてくるのを自覚する。
それは大輔にとって戦最中にはよくある事で、取り立てて珍しい訳ではない。

だが対策を忘れたのは予定外だった。久々の主君と馬を並べる機会に浮かれていたと言わざるをえないだろう。

さすがに失敗したかと思いつつ、今ばかりは無性に元就が恋しい。

とはいえ今は。

まだしばらくは城に戻る事さえ不可能だろうと諦めて、一つ大きく嘆息を洩らすしか大輔にも選択肢はない。

気を紛らわしてくれる敵が来るのは今暫く後の事だ。






今さらですがこの天眼征行は2の天下統一モードをもとに書いています。実際の地理とか年代とか作者は全然知りません。はい、今さらですが。





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