それから何事もなく学校へ着き入学式を終えた山田真澄は、発表されたクラスで軽いホームルームを終え帰り支度をしている真っ最中だった。山田という苗字はこのクラスで名簿が一番最後だったため、五十音順にあてがわれた自分の席は窓側の列の一番後ろだ。

本音を言えば真澄は一番前の席が希望だった。窓側の一番前は黒板がよく見えるし、何より周りが視界に入らないため授業に集中できる。まあ入学したてでそんなことを言っても仕方がないのは分かっているから真澄は早々に自分の中でこの不満を割り切った。ーー実は山田真澄はこういう少し面倒くさい考え方をするところがある。自分の気持ちを整理するのにあれこれと頭の中で考えなくてはすっきりしないのだ。


そこで今朝の出来事が頭を過る。
桜並木、赤と黒と白の色彩と少し困惑した鋭い目。真澄の中では倒した相手の上に座り一服していた姿や怒りを思い切り露わにした般若のような形相よりも自分に詰め寄ってきた後の男の表情の方が脳裏に鮮明にフラッシュバックしていた。

自分はあの時本当に殴られると思った。いかにも不良然としていたあの人。気も短そうだったし、多分相当怒っていたはずだ。なのに何故あの人は自分を殴らなかったのだろうか。
きっかけは自分があの人を思わず凝視してしまったことか煙草のポイ捨てを指摘してしまったことだろう。何にせよ、あの人がそれで腹を立てたのだろうことは簡単に想像できる。そこはすんなりと納得できるというのに、その後のあの人の態度に釈然としない気持ちだけがモヤモヤと膨らんでいた。


真澄は自分の身体のサイズから考えればいくらか大きなリュックを担ぎながら教室をでる。一年の教室は四階にあるためぐるぐると階段を降り続けなければならない。階段の手摺りに右手を滑らせながら思考をぐるぐると巡らせたが納得する答えは見つからなかった。これはもう仕方がない。そもそも、不良の思考回路は自分には到底理解できない。それもそうだなと自分の中で整理をつけ、真澄はなんとかこの事を頭の隅へ追いやった。ーーそう、せっかく追いやったというのに。


玄関で下足を履き替え校門を出た瞬間、突然視界に飛び込んできた見覚えのあるオールバックに真澄は思わず目を見開く事になってしまう。



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