「ところで、」

「なに?」



「ずっと気になっていたんですけど、」と切り出した真澄に流花は「だからなに」と返す。手当ても終わったので出した消毒液やら絆創膏のゴミやらを片付けていると「流花ちゃんはオカマさんなんですか?」といきなり問われ、聞かれ慣れている流石の流花もこれには勢いよく吹き出した。



「あんた、そんなストレートに聞いてくるヤツ初めてなんだけど!」



ひーひー笑っている流花に、真澄も少し言い方がよくなかったのかと悟りあわあわと慌てだす。



「えっと、あの、言いにくいことでしたらその、ムリにとは」

「別に、よく聞かれるし……って言ってももっとオブラートに包んだ感じのヤツをね」

「あっ、」



ついつい意地悪な言い方をすると真澄は眉を八の字にして今にも涙を浮かべそうなくらい困りきる。必死に弁解しようと口を開くのだがそれはあ、とか、う、とか言葉にならないものばかりだ。

ひとしきり笑い終えた流花は人差し指で自分の瞳に浮かんだ涙を拭いながら心底愉快な気持ちでいた。下手に言葉を選びつつ聞かれたのの方が数倍不愉快なのだとたった今知る。



「俺オカマじゃないよ、期待を裏切って悪いけど」



ただの癖なの、そう言えば真澄はまた慌てたようにしながら頭をブンブンと振る。それが可笑しくて流花はまたひーひーと笑った。



「別に怒ってないよ、むしろそんくらいビシッと言われた方がこっちも気持ちいいわ」

「……本当ですか」



軽く笑みを作ってうなづいてやれば真澄はホッとしたように胸を撫で下ろした。ーーなんて分かりやすい子なんだろう、と流花は思う。



その時キーンコーンカーンコーンと授業の終了を告げるチャイムがなった。そこでやっと思いの外長々と話していたことに気づく。



「やだ、もう授業終わったみたい。あんた、次どうすんの?休んで寝てく?」

「あ、俺授業はサボらないです」



大丈夫ですとうなづく真澄にそう、と軽く相槌を打って返す。確かに見た目からしてサボったりなんてしなさそうだ。冗談も通じないし、根っからの生真面目なんだと改めて認識する。ーー疲れるタイプの子ね、なんて思いながら。





「流花、迎えにきたけど……って、お取り込み中?」



突然ガラガラと扉を開ける音と共に聞こえた声に視線をやれば、明らかに冷めた目をしたショートカットの女の人が腕をくんで此方を見ていた。そこでやっと自分が上半身裸で毛布を被っていたことを思い出す。



「まさか、俺タイプじゃない子にまで手ぇ出したりしないよ」



真澄が何か言わなきゃと思うのより早く流花が馬鹿にしたように鼻で笑いながらそう言えば、ショートカットの女の人はそれもそうねと呆れたようにうなづく。その顔つきは整っているためかとても冷んやりとして見える。切れ長の瞳がそれをさらに強くしているのかもしれない。しかしそれが人間性まで冷たく見せているのかと言われればそれも少し違って見えた。彼女のクールな雰囲気には透明さを感じるのだ。



「ごめんね、俺迎えが来たから行くわ」

「いえ、手当てありがとうございました」



ぼんやりと思考を彷徨わせていた真澄はビシリと気を付けすると、教科書に載っていそうなくらいしっかりとしたお辞儀をする。そんな真澄に苦笑しながらやめてよと流花は笑った。



「洗った体操着、窓際に干しといたから帰りにでも取りにきな。替えのヤツは今出したげるから」



そう言って慣れた様子で保健室を物色する流花に真澄はますます頭が上がらないとばかりに腰を低くする。



「何から何まですみません」

「別にぃ」



はいよ、と手渡された体操着を受け取り真澄は深々とお辞儀する。本当良いからと少し疲れた口調で苦笑され、また自分は何かいけなかったのかと思いそろそろ顔を上げればーーそこには困ったように優しく微笑む流花の顔があった。



「そうだ、これあげるわ」



そう言ってどこから取り出したのか、シールをペタりと真澄の手の甲に貼り付ける。ーーそれは親指の爪くらいのサイズの桜柄のシール。



「それ、制服の名札んとこにでも貼っときな。仲良くなった記念よ〜」



そんじゃあね、と顔の横でヒラヒラと手を振った流花は迎えに来たという女の人の腕に自分の腕を絡めて保健室を出てゆく。
真澄は手の甲に貼られたシールと流花の出て行った保健室の扉を交互に見やりながら、ほこほことあたたかくなる胸の内の感覚と共にえへへと一人微笑んだのだった。









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