「えっと、名前聞いてもいいですか?」



彼の突然の問いかけに少し驚いた。ーーが、すぐに悪戯っ子のような笑みを浮かべてなーに、気になる?と茶化す。こくんこくんと二度うなづいた真澄の動きが可愛らしくて、思わず彼のほっぺを人差し指でぐりぐりと押す。さらさらとした頬は思っていたよりも弾力があって気持ちがいい。



「え、痛ひでふ」

「ああごめん、ついつい……名前だったっけ?流花よ。流花ちゃんって呼んで」

「……るかちゃん?」

「そうよ」



目をぱちくりさせているその仕草が新鮮で、流花は真澄をさらに構いたくて仕方がなくなる。



「……るかっぽい」

「ぷ、なにそれ」

「響きが軽いというか、お洒落な感じですよね、るかって」

「そんなことないよ」

「漢字はどんな字ですか?」

「別に普通よ、流れる花で流花よ」

「へえ」

「……なによ」

「やっぱりお洒落だなと思って、流花ちゃんぽい」



そう言って真っ直ぐ此方を見る視線がこそばゆい。なんなのこの子、馬鹿なの?天然入ってんの?
ぐにーっと頬を引き伸ばせば痛ひ痛ひと眉を下げて涙目になる。




「流花ひゃんいひゃひれふ」

「何言ってるかわかんないわよ、てかあんたさっきから小っ恥ずかしいのよ」



本当にそうだ。思ったことをそのまま口に出しているかのようなその言動に、流花は先程から適当にあしらっているものの正直どう捉えていいのか悩んでいた。
ーー変わった子。



「あんた、変わってるってよく言われるでしょ」

「自分じゃよく分からないんですけど」



変わっていますか?と問いかけてくる真澄に変わってると即答すれば彼は考え込むようにうーんと唸った。俺の何処が変わっているんだろうとブツブツ言いながら真剣に悩んでいる。ちょっと言い方が悪かったかななんて流花の方が後から後悔してしまうような悩みっぷりだ。



「ま、俺があんたに変わってるなんて言えた義理じゃないけどね」





はいできた。そう言ってポンと膝を軽く叩かれる。消毒された膝には綺麗に絆創膏が貼られているが傷口を叩かれてはやはり痛い。眉尻を下げて声にならない声をだす真澄を尻目に流花はどうしていいか分からずにいた。
ーー馬鹿犬だったらキャンキャン吠えてるだけだから気にしたりしないのに。真澄は真っ直ぐ受け止め過ぎるから少し意地悪な行為や軽口が冗談にならない。
手当てなんて、本当は柄じゃない。あんな血だらけじゃなかったらほっといていたとすら思う。ほんの些細な気まぐれを起こしたばっかりに、なんで自分はこんな焦ったりくすぐったいような気持ちにならなきゃいけないのだろう。



「ありがとう、ございました」



眉を下げたままのくせにちゃんとお礼を言う真澄に少し呆れるが同時にホッとする。「別に良いわよ」と素直な気持ちで言えた。それが伝わったのか、真澄は眉を弧にしてパチパチ瞬きすると嬉しそうに柔らかくはにかんだ。

それがとてつもなく恥ずかった。






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