2人が教室を出たあと、シーンと張り詰めていた糸が切れたかのように一気に教室中が騒然とした。
やれ怖かったとか、あの金髪の男は誰なんだとか、山田真澄は一体何者なのかとか、各々が言いたい事を脈絡もなく言い合っている。ーー嵐の過ぎ去った教室内は相当なパニック状態であった。
唯一真澄の隣の席である冬川だけは一言も口を開くことなく(内心は非常に混乱していたが)大きなエナメルバックをかついで体育館に向かうべく教室を出た。

正直、非常に驚いていた。たった一日で(正確に言えば数時間の出来事だ)山田への見方がこんなにも変わるとは思ってもみなかった。最初は興味すら感じていなかったというのに、彼には"手を貸してやらねば"と思わせる何かがある気がする。ーーその何かは冬川にはまだよく分からないのだけれど。
彼なりに一生懸命話していたのは会話していてとても伝わってきた。それがなんだかとても微笑ましく感じたのだ。
きっと今日のこの出来事で山田はまた変な風に誤解されたことだろう。アイツにそれが上手く解けるとも思えない。ーーしょうがないな。多分自分が手助けしなければ彼はまたあの半ば強引な方法でクラスメイトに新たな誤解を植え付けるんじゃないか。その光景がありありと想像出来てしまうのだから可能性は低くないだろう。同じクラスになったのも隣の席なのもきっと何かの縁だ。
ーー俺くらいはせめて普通に接してやろう、そして困っていた時には手を差し伸べてやろう。冬川はよしっと一つうなづくと軽快な足取りで体育館を目指したのだった。




一方その頃、山田真澄はズンズンと先を歩いてゆく幼馴染の機嫌をどうやってとろうかと考えていた。真澄の幼馴染ーー夏野風来は相変わらず真澄のリュックを右肩に引っ掛けたまま、足を引き摺る様にガニ股でズンズン歩いてゆく。



「ねぇ、ふーくん」



耐え切れず声を掛けるとピタリと足を止めグルンと首だけを此方に向ける。その表情は怒っているというよりもどこか不貞腐れているようだ。



「なんで俺の機嫌が悪いかなんてどうせ分からねぇんだろうが」



こんな風に問われれば真澄は閉口するしかない。確かに風来がどうして機嫌を悪くしたのか真澄には分からなかった。しかし直球にこういう理由で腹を立てたのだと言ってくれれば真澄だって素直に謝れるし改善出来ることであれば直す気だってあるのだ。なのにこの捻くれた幼馴染はそんな気を削ぐような話し方をする。
ーーだけど長年一緒にいる真澄は幼馴染に悪気がないことを知っている。彼は素直に自分の気持ちを吐露することが恥ずかしいのだ。今だって、自分が言った台詞が真澄を困らせていることに気付いているくせに何も言えずに固まっている。
それが分かっている真澄は毎回自分から折れてやっていた。例え自分が一切悪くなかったとしても、風来相手に意地を張り続けたら一生話は進まないのだ。



「ふーくん、俺が悪かったなら謝る。ごめんね」

「……許してやるよ」



上から目線なのにどこかホッとした様子なのが憎めないんだよなあと真澄は毎回思う。
少し機嫌を良くした風来は真澄が追いつくのを確認すると今度は真澄の歩幅に合わせて歩き始める。ーーほらね、本当はこんな風に優しいとこもあるんだ。

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