のしのしと威圧感を放ちながら此方へ向かってくる金髪の男は山田の目の前に立つやいなや、ベシンッとハリセンで引っ叩くかのように己の手の平で山田の頭を思い切り叩いた。そのあまりの勢いに山田の頭がぐわんと大きく揺れる。
いててなんて言いながら頭をさする山田に飛んでいた俺の意識が急速に戻った。
慌てて大丈夫かと声をかける。



「大丈夫、慣れてる」

「慣れてるって、」



これに慣れるって、おいおい。
自分の肝が一気に冷えて、真澄の肩に乗せていた手にぎゅっと力がこもった。真澄は眉をそろりと下げるとそんな俺の手をポンポンと撫でる。



「大丈夫、これ幼馴染が不器用なだけだから」

「は?」



思わず素っ頓狂な声が出てしまったのは致し方ない。そもそも、これは不器用とかそういった次元の話しなのか?
いろいろと突っ込みどころは満載なのだがいやしかし、今はそれをいったんおいて置こう。今ちょっと耳を疑う発言があった気がする。



「幼馴染って、」

「うん、さっきからちょろっと話題に出てた人だよ」



幼馴染と言えば山田がこの学校を受験するきっかけとなった人物ではないか。



「この人が」



そう言ってチラリと視線を向ければ金髪の男ーー山田の幼馴染は先程よりも苛立った様子で顎を仰け反らせながら腕組みをしている。金色の髪は鶏冠のように逆立っており、拡張されていそうな両耳の耳朶にはゴツいシルバーが重たそうにぶら下がっている。
山田の幼馴染というからてっきり山田のように素朴な雰囲気の人物なんだろうなと勝手に想像していたのだがーーいや待て、確か山田は幼馴染を「憎めない俺様」と即答していたではないか。



「なにごちゃごちゃ俺のわかんねぇ話ししてんだよ」



そう言ってもう一回ベシンと山田の後頭部を軽快に引っ叩くその姿は知らない人が見れば苛めっ子と苛められっ子だ。
この人が山田の幼馴染だなんてーー冬川はもはや唖然とするしかない。



「取り敢えず帰んぞ」



そう言って強引に山田のリュックを奪い上げスタスタと扉に向って歩いてゆくその後を山田が慌てて追いかける。



「あ、」



急に足を止め山田は何か思い出したようにくるりと振り返ると、数回口をパクパクさせ「冬川くん、また明日」と言ってペコっと頭を下げた。



なんだ、これ。
山田のその小動物のような小さな動きに知らずと冬川の頬が弛む。
冬川は優しく微笑みながら「おう、また明日」と言って手を振った。何故だか分からないが冬川の中をほんわかと温かなものがぷくりぷくりと膨らんで満たしてゆく。シャボン玉のような不確かなそれはまだハッキリとした形を持ってはいないが、今確実に冬川の中に存在した。



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