まさかそんな顔をされると思わなかったから少し戸惑う。
でも悪い気はしなかった。

遠慮なく教科書を見せてもらうことに決めた俺は珍しく真面目にシャープペンシルを握る。こんな機会でもなきゃ一時間ちゃんと授業を受けるなんてことはそうそうないからな。
そこでチラリと覗いた山田の教科書に冬川は絶句した。
なんなんだ、この教科書。公式や用語が色分けされて所々マークされている。チェックが入っている問題は……自分で目を通して分からなかったところか?まだ配られたばかりだというのに授業ではやっていない範囲のところまで書き込みのある山田の教科書に、思わず冬川は一瞬引いた。
なんだコイツ、習ってねぇとこまで予習してるとかすごすぎじゃね?勉強すんのが好きとか?だったらなんでこんなレベル高くない高校選んだんだ?
頭の中でどんどん疑問符が浮かんでくる。改めてチラリと横目で隣の山田を見ると、真剣な眼差しで黒板とノートを代わりばんこに凝視しては素早くシャープペンシルを走らせていた。少し斜めを向いた細長い彼の文字は一定の間隔を保ちながら非常に見やすく書かれている。
几帳面なヤツなんだななんて感心しながら、冬川はこの授業を山田の書く気持ちのいいノートの文字だけを目で追って過ごした。






「なあ、山田」



授業が終わりすぐさま山田に声をかける。授業中はあまりにも真剣そうだったため声がかけずらかったのだ。



「なに?」

「お前、数学予習してんの?」



取り敢えず頭の中の疑問符を一つずつ解決したくて、冬川は真澄の顔を覗き込みながらトントンと教科書を指差す。真澄はなんで?みたいな表情でキョトンとしながらコクンんうなづいた。



「予習、するよ?」

「え、毎日?」

「……しないの?」



逆にそう問われ冬川は言葉に詰まる。自慢ではないが生まれてこの方予習なんてものはしたためしがない。試験勉強でさえ3日前からの徹夜でなんとか赤点をやり過ごしてきたんだから、当然と言えば当然だ。

しかし真澄は少し眉をぎゅっと寄せて視線を中に彷徨わせると言葉を選ぶようにゆっくりと話しだす。



「あ、でも俺部活とかしてないし、幼馴染にもよくキモイって言われる」



真澄にしてみれば向こうからせっかく話しかけてくれたのだから相手の気分を害することなくもう少しだけ御喋りしてみたかった。
しかし普段考えてモノを喋るなんてことをしないから会話がものすごくたどたどしい。



「幼馴染は、勉強好きじゃないみたいだから、俺が勉強してると、シャーペンとかとられる」

「ぶはっ、そうなんだ」



てか、なんでそんなに喋り方がたどたどしいんだよ。そう言って突っ込めば頬を真っ赤にさせながらえ?ごめん?と何故か問いかけられるように謝られた。




「勉強好きなんだ?」

「好きってゆうか、予習した方が授業分かるから」

「へぇ、真面目だなあ」




感心したような声音で喋りかければ途端に目をパチパチさせ、眉を下げながら控えめな声で「そんなことないよ」と返された。しかしやはり頬は赤くて、どこか嬉しそうに見えた。


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