五時限目は数学だった。得意でも不得意でもない科目だったが逆にやる気は十分であった。昼食を終えてから俄然やる気に満ちていた真澄はまず目の前のことから集中していこうと意気揚々としていたのだ。
そこでふとガサガサと鞄や机を漁る隣の机の人物に気付いた。どうやら教科書を忘れたらしい。これはチャンスなんじゃないかと真澄の頭にピーンとアンテナがたった。



「教科書、見てもいいよ」



そう言って相手の返事も聞かずに机をよいしょとくっつける。真澄はよく勇気を出したと自分で自分を誉めてやりたい気持ちでいっぱいであったが当の隣の席の住人はいきなりの真澄の行動にびっくりである。



「え、あの」

「気にしなくていいよ」

「あっと、……うん」



右手で制され、うんとうなづくことしかできない。



「えっと、ありがとう」

「!ど、どういたしまして」



ありがとうと感謝をされたことに真澄の中のやる気ボルテージがぐいーんと急上昇する。俺は今、この人の役にたてているのだという満足感をひしひしと感じていた。


一方、隣の席の住人ーー冬川雪斗は突然のことにただただ驚くばかりだった。

授業が始まるギリギリに席に着いた冬川は慌てて形だけのノートと筆記用具を机から出した。(午前中はいちを最初だから真面目にノートをとろうという気だけはあったのだが、途中からうとうとして自分でも読めない謎の暗号ノートになってしまったため午後の授業は半ばノートをとるのを諦めていた)教科書も持ち帰ることなく置き勉しているため机の中に必ずあるはずなのだが、いかんせん全教科が詰め込まれているのでなかなか見つけ出せない。

そんな時だった。いきなり隣から声をかけられたのは。

教科書を見せてくれると申し出てきた隣の席の住人は自分はよく分からないが朝からなんだか噂されているヤツだ。興味もないので噂の内容までは分からなかったが周りはやけに彼から距離をとっているようだ。大人しそうなヤツなのにいったい何をしたんだろう。そう不思議に思っていたのだが、関わるのも面倒なので冬川は我関せずを貫こうと思っていた。ーーそれなのに。
返事をする前からガタガタと音をたてて机をくっつける彼を、冬川は止められずにいた。もともと意思をハッキリと伝えるのが苦手だった冬川はどうしたらいいのか分からなかった。取り敢えずここは素直にありがとうと言っておいた方が波風立たずに済むだろうと判断し、戸惑いつつも感謝の意思を隣の席のヤツ(確か名前は山田)に伝える。するとどうだろう。山田は嬉しそうに目を少し細めて「どういたしまして」とはにかんだ。
それにまた驚く。


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