噂話

次の日、真澄が教室に入るとちょっとした有名人になっていた。
チラリと聞こえてきた会話は昨日の帰りに校門前で真澄が不良に絡まれていたとかいないとかいう内容だ。真澄はいかにも怖そうな不良に絡まれ脅されたのに怪我一つ負わずに追い返したというのである。
明らかに盛られている。真澄はまず脅されていないし(相手の口調は確かに悪かったが)ただ話しかけられただけなのだからそれだけで怪我を負うわけがない。まあ、この程度の尾ひれならまだあながち外れていないような気もしたから聞こえないフリをすることにしたのだが、真澄がどこそこの総長の子分なんじゃないかとまで聞こえてきた時は流石に否定しようかと迷った。いったいどうしたらそんな尾ひれがつくのだろう。ちょっと考えたらあり得ないと分かりそうなものなのに。真しやかに囁かれるクラスメイトたちの噂話に、真澄は登校早々ぐったりとした気持ちに苛まれるハメになった。




真澄の疲労などお構いなしに時間は刻々と過ぎてゆく。昼休みになり昼食の時間になったが真澄は一人取り残されたようにぽつんと机に向かっていた。そこで改めて真澄はぎゅっと胃を握り潰されているような心境になる。休み時間の度に真澄の周りから人がいなくなることに胃がキリキリと痛む思いを感じていたのだが、まさか高校最初の昼食まで一人になるとは思ってもみなかった。
とはいえ真澄はもともと人付き合いが下手くそだった。本人にそのつもりはなかったが、中学でも割りと浮いていた真澄は(生真面目過ぎて変なヤツだと思われていた)友人と呼べるクラスメイトも片手で足りるほどしかできなかった。
しかし真澄は真澄なりに奮闘していた。自分のようになかなか人の輪に入れないでいる大人しそうな人物を見つけると勇気を出して喋りかけてみたりもした。結果、それが真澄の数少ない弁当仲間になっていたのである。
真澄は自分の何がいけないのかをいつも真剣に考えていた。真剣に考え過ぎて空回りすることも多々あったし、見当違いの行動をとって奇異な目で見られることもあった。その度に真剣に悩み落ち込みを繰り返し少しずつ免疫をつけ次第に慣れていくという過程が真澄のお決まりだったのだが、本人はどうにかしてその連鎖を断ち切りたかった。高校に入学すれば偏見などなく今までより多くの人と関われるだろう。ーー友達百人とは言わないが、せめて十人くらいなら夢ではないかもしれない。やはり最初が肝心なのだから、勇気を出して自分から話しかけてみよう。
そう思って期待に胸膨らませていたというのに。

真澄は静かにリュックから弁当箱と水筒を取り出して昼食をとった。大好きな唐揚げが妙に喉に突っかかるのを水筒のお茶で無理矢理流し込む。

おい山田真澄、今落ち込んだって仕方がないじゃないか。俺が悪いのか?そうじゃない。尾ひれのついた誤った噂が原因じゃないか。だったらその誤解を解けば解決するだろう?ここでへこたれるなよ。

うん、とうなづいて白いご飯をかきこむ。一人ご飯なんて今更だ。中学時代も最初は一人だったけれどすぐに弁当仲間をつくれたじゃないか。今が底辺ならこれ以上下はない。ぐるぐると思考を巡らせ、いっそ清々しい思いで山田真澄は初日の昼食を終えたのだった。


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