6side:秋元2

「ちったぁビビれよな」



あからさまにビビられ過ぎるのも腹が立つが、ビビられないのもそれはそれでプライドが傷付く。自分でいうのもなんだがそれなりに厳つい風貌であることは自覚していた。
なのにあの野郎は怯えるどころか、携帯灰皿を自分に寄越すとなんだかんだ言いくるめてスタコラとその場を去って行きやがったのだ。その大胆さはもはやあっぱれとしか言いようがない。

秋元は素直に少しだけ感心していた。見た目によらずやりやがる、と。

入学式がうんたらとか言ってやがったから多分今年高校に上がったばかりの一年坊主だろう。この辺に学ランを制服にしている高校は何校かあるが去っていった方向的に俺と同じ四季工業高校である確率が高い。
そう思った俺は一年生の下校時間を推測して校門前を張ることにした。
ナメたマネをされたお礼をしに行こうとは思わなかった。第一、あれくらいのことでいちいち腹を立てていたらキリがない。俺はただ、単純に面白そうなヤツを見つけたと思ったのだ。見るからに平凡そうな、ーーなのに物怖じしない肝の据わった面白いヤツ。
名前も知らないヤツに与えられた灰皿を使う気にもなれず、俺は学ランのポケットにそれを押し込んでゆっくりと学校の方へ歩き出したのだった。怒りはとっくに霧散していた。その代わり少しばかりの高揚感と好奇心がじわじわと満ちていくのを感じていた。


俺の予想は当たりだった。
俺を見つけて心底驚いた表情を見せるヤツにどこか満足した気持ちになった。聞けば機械科の一年で名前は山田ますみというらしい。
そこまで知って、わざわざ校門前を張ってまで本人から直接聞き出した事が今更ながら気恥ずかしく感じた。なんだか気まずくて、俺はそれを誤魔化すように胸ポケットから煙草を取り出して咥える。シュボッと音を立てたライターの若干強すぎる青い炎が巻紙をチリチリと燃やす様をながめながら何をやってんだかなぁと内心己れに苦笑していた。
さり気なく学ランのポケットから携帯灰皿を取り出して灰を落とす。ーーそう、本当はさり気なく灰皿の礼なんかも言おうかと思っていた。勝手に押し付けられたようなものだが物をもらったことには変わらないし、あればあったで実際こうして使うのだ。
しかし、本人を目の前にするとそんな言葉は喉の奥に突っかかって出てきやしない。何より相手の驚きようが照れ臭さを更に煽った。

結局その場に居づらくなり、俺は特に何といったことも言えずにさっさとその場を離れた。最後後ろ手にひょいと携帯灰皿を掲げてみせ、これでいちをやる事はやったんだと自分を納得させた。






「……だせぇな」



今思い返してもかあーっと身体が熱くなる。本当、らしくないことをしたなと思う。その反面、また顔を合わせたら次はジュースの一本でも奢ってやろうかなんて考えが浮かぶのだから、もはや苦笑するしかなかった。



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