「距離、おきやしょう」


そう切り出したのは外でもない、俺だった。
その言葉はなんだろうか悲しくなるくらい俺の口からスムーズに出てきて、ごんべえの部屋にその言葉が染み込む。
それを聞いたごんべえもあまりにスムーズすぎてその単語が理解出来ないのか、はたまた理解したくないからなのか俺に反応をみせるまで三秒以上がかかった。



「いきなりどうしたの…?」


笑顔がぎこちなくなった。
そんな顔にさせたのは俺だけど、そんな顔するンじゃねぇやと思う。明らかなる我が儘。

俺の苦しみも察しろ、のろま。だからオメーのあだ名はのろまカタツムリなんでィ。(呼んだのは俺だけだけど)



「どうもこうもねェさ。言葉の通りでィ。俺ァ、仕事もあるンでさァ、…こういうの疲れンだ」


「総悟…」


みるみるうちにごんべえの顔が曇ってくる。あー。
オメーはこれが俺の本心だとでも思ってンのかィ。
俺だって、距離をおきたくねェや。
むしろこのまま友達以上恋人未満の二人でいて、もう少ししたらいつまで経ってもオメーの口から聞けない『好き』の二文字を俺から言って抱き締めてェ。


だけどねィ
うまくはいかないもんでして。

生憎、俺ァ病気らしいんだ。
嘘じゃねェぞ。
…言わないけど。

何時死ぬかもわからねェ、このまま友達以上恋人未満から抜けて恋人になってそのまま俺が死んだら、それこそオメーの事だ。
俺に気ィ遣って一生俺以外に恋人作ンねェだろィ?
それじゃ駄目なんでェ。

だから。


「だから、ごんべえとはもう会わねェ。じゃ」

そういって俺が立ち上がり、玄関に向かって靴をはくと、突然ごんべえが優しく腕を掴んだ。
力強く掴まれるなら次に平手打ちでも来るのかと思い話は分かるのだが、優しく掴まれて驚きながら後ろを振り返った。
するとごんべえが今にも泣きそうな笑顔で、今までごめんね、と謝ってきた。


「今まで、ありがとう」


そう付け足すと俺の頬にキスをした。

俺はどうしたらいいかも判らずに、もやもやする思いを抱えながら「じゃあな」とだけ残して二度と来る事の出来ないごんべえの家から出た。
玄関の戸に思わずもたれかかると、中から泣き声が聞こえてきた。


畜生。これじゃどっかの、阿呆と同じじゃねェか。

俺もとんだ阿呆だ、と思いながらも背中の先の彼女が幸せになれるようにと強く願った。




素敵な恋をキミに
(幸せになれよ、)
(俺の一番好きなひと)


090315


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