肺に送られる酸素が物足りない気がして深く息を吐いて、吸い込んで、また息を吐く。まだ明け方の来ない帰り道を隣で歩く鉢屋に動揺してんな、と言われた。そりゃしますでしょうよ。だって、不破くんに彼女が出来たなんて、聞いてない。

「さっき聞いただろ」

聞きましたけど。本人居ませんでしたけど。まさかあんな形で彼の恋愛事情を聞くことになるとは思いもしなかった。あまりに突然すぎて、私は受け身をとれずに背中を思い切り畳に打ち付けたようなそれくらいの衝撃だった。

「まぁ安心しろ、持って3ヶ月だ」

大抵の女は雷蔵の草食っぷりに我慢出来なくなる、と伊達に親族で幼なじみでお隣同士に住んでるわけじゃない鉢屋は、立ち止まった私を数歩後ろに置いてきぼりにして飄々と歩いた。

「3ヶ月…」

彼は簡単に3ヶ月と言ったが、果たして3ヶ月後に彼女さんと別れた不破くんは私のことを恋愛対象として見てくれるのだろうか。センチメンタルな気分にのって、そのまま鉢屋に言おうとしたけれど、前に鉢屋が言ったことを思い出してやめた。そうだ、私は女で、鉢屋は男、そして不破くんはノンケ。鉢屋はすました顔で、自分は不破くんにとって恋愛対象にすらならないと言ったのだ。こういう時に記憶がリンクしてくれるのはすごく助かると自分の脳に思った。

「おい、名無史之」

私が立ち止まっているうちに鉢屋は私の元へ戻って来てくれたらしく怪訝な顔をしてみせた。慌ててごめん、と謝るとまだ雷蔵のこと?と心配された。

「すみません…」

思わず謝る私と少しの沈黙。気まずくて下を向いたら、また名無史之と呼ばれた。

「失恋お疲れさま」

私に向けて両腕を開く鉢屋に、私はじわりと鼻にくるものがあり、恥ずかしげもなくその両腕に飛び込んだ。寂しいよと喚く私によしよし、私も寂しいよ慣れっこだけど、と子供を抱き抱える母のように手のひらでぽんぽんとリズムをとりながら背中に手を回してくれる鉢屋の温もりといったら。秋の夜長の寒さが、少しはマシになった。そして私の肺の酸素率もその頃にはまともになっていた。


ライトな関係
(鉢屋飲み直そう)
(ああ、そうしよう)



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