もう、知らない。もう嫌だ。
そんな言葉を喚き散らして、俺がごんべえの気迫にちょっと気を取られている間に、ごんべえはこの部屋を飛び出した。
事の重大さに気付いたのはごんべえが飛び出した、5分後だった。


:言葉を知らない


しかし、事の発端もどうしてそうなったのかもわからない。
長いことごんべえとは生活を共にしているが、こんなごんべえを見たのは初めてだった。ということは、相当ごんべえは俺に対してうっぷんを溜めていたのか?それに俺は気付かないまま、暮らしていたと。
答えのみえない問いは延々と俺の頭をぐるぐると廻って、とりあえずごんべえと話さないことにはどうにもならないと気づくまでに、30分。相当動揺しているらしい。
家を出ようと、携帯と鍵と財布だけ持って立ち上がった時だった。握った携帯の着信音が鳴り、発信者を見るとそこには『松本 乱菊』と出ていた。

「もしもし」
『あ、修兵?泣きながらごんべえが家に来たんだけど』
「ごんべえ、居るんですか」
『泣きつかれたのと、大分酔っぱらって寝ちゃってるわよ』
「今から行きます」
『わかった、気をつけていらっしゃいね〜』

家を出て、タクシーを拾って乱菊さん家に向かう。タクシーを外で待たせ、部屋に駆け足で向かうと家主が微笑んで待っていた。手のかかるカップルね〜、と言われながら部屋に入ればソファに寝転がるごんべえの姿があった。
顔を見て安心するのも束の間、乱菊さんに ちゃんと話をしなさいよ と小突かれれば頭を下げて謝るしかなくて、ごんべえの体を抱き上げてお邪魔しました、と部屋を後にした。
ありがとうございました、はごんべえが起きてお互いの話がし終わったとき、お菓子でも持って二人でまた乱菊さんのところに来よう、と思った。


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少しの肌寒さと、胃腸の気持ち悪さを感じてうっすら瞼を持ち上げれば、カーテンの隙間から差し込む外の明るさで、部屋が薄明るい。いつもの寝起きの光景であるのだが、私はその時違和感を覚えた。何故なら今私が居る部屋は昨夜飛び出したはずの部屋だったからだ。
昨夜といえば、修兵に私がほぼ八つ当たりも同然に喚き散らした揚句、そんな自分と、怒りもしない修兵に苛々してしまい部屋を飛び出した。しかし行く当てもなく、思わず携帯で乱菊さんに助けを呼んでから乱菊さん家にお邪魔してお酒を飲んだところまでは、ぼんやりだが記憶にあった。でも、どうして此処に戻って来ているのか、それまでの経緯が思い出せない。うつ伏せていた体を起そうとベットに手をついて腕に力を入れたが、少し体を浮かせたところで胃の中がぐるぐると周り出して、なんとも微妙な体制のまま動きを止めてしまった。

「まだ寝てろよ」

動きを止めた私の頭上から声が降ってきた。
聞きたいことは山ほどあったが、なんせ今は起き上がることすらままならないこの状態で何が出来ようか。声を振り絞って、ごめん、と漏らせば言葉の代わりに私の頭を彼の手が優しく撫でた。
私はその手のぬくもりに感謝しながら、今は言葉の通り甘えさせてもらって、体をベットに委ねる。ああ、なんと居心地の良いことだろう。それと反比例して昨夜の自分の失態と言えば。ああ、情けない。修兵、ごめんね。そう思い出したらじん、と目頭が熱くなって、しまいにはシーツに出来るしょっぱい染み。相変わらず私の頭から離れなず、何も語らないこの手のひらの持ち主は何を思うのだろう。
ねえ、ごめん、ごめん。すきだよ、やっぱ離れたくないよ。

アクエリでも飲むか?

そう聞いてきた彼に、シーツの染みは広がる一方だった。


(落ち着いたら、な)
(うん、うん、)
(たくさん話そう)
(ごめん、ごめん、)
((あいしてる、))
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