『好きな子程抱きたくなるもんじゃないの』
そう土方さんと総悟に問い掛けたのは数日前の事である。土方さんはお前何を言ってるんだと煙草を吸う手を一旦止め私をまじまじと見て、総悟に関しては普通はそうだろうねィとこれまた普通に返答を返してきた。
私としては土方さんの反応が面白かったので、少しからかってやろうと思ったがやめた。今聞きたいのは冒頭の私の質問に対する答えなのだ。


「なんでまたンな事を…」

「土方さんは阿呆なすですかィ。名前がこんな悩み打ち明けてくるんですから万事屋の旦那の事に決まっているじゃありやせんか。これだから土方のトリプル阿呆なすヤローはモテないんでさァ」

ハァと両手を挙げて溜め息を吐く総悟。土方さんは良く耐えてられるよなぁと心の底から感心した。私なら多分無理であろう。

「さて話は戻しやして…名前は旦那に抱かれたいのかィ?」

「逸らしたのはテメェーだぁぁぁあ総悟ォォオ!!!!」

間髪入れず突っ込むのは土方さんで、うむ、相変わらずだ。
突っ込むのもいいのだけど、このままだと私の話が先に進まないので土方さんを無視させてもらおう。許せ土方さん!


「そういった関係になりたい訳でもないんだけど…なんというか、不安で、ね」

「何がだィ」

「いや、ほら。付き合って数ヵ月経つのね。なのに一度たりともその、迫ってすらこないから…その」

女としては不安じゃん!と必死で伝えるも間延びした声で嫌な可能性を上げてくる総悟くん。

「可能性いちー。旦那は実は男好きィー。そのにー。旦那は実は不感…」


「いいィィィィィイ!言わないでいいからァァァァア!!!!」

必死で伝えることもむなしく、必死で総悟の口を手で塞ぐ。
へいへい、と言われ手を外されると俺だったら手ェ出してるけどねィと言われた。そうか。

「色気ないのかなぁ」

そう呟くと、土方さんの手が頭にポンと乗っかった。

「気にするこたァねェよ。アイツは臆病になってるだけだろ、時が来たら嫌でも迫ってくらァ」

そう言われたらそう頷ける。
ああ見えて銀ちゃんは意外と寂しがりやだ。
臆病になっても無理はないと思う、なんて思いは自惚れなのだろうか。


「ま、名前から迫ってみンのも一つの手だと思うけどな」


今日くらい土方さんが大人に見えたことがない!
総悟はとなりで土方さんはそういうプレイが好みなんですかィとからかって、それをまた土方さんが追い掛ける。

何だか二人に話したらすっかり元気になった。

有り難うとおいかけっこをする二人に伝えると万事屋へ走った。





銀ちゃん、
銀ちゃん、

銀ちゃん。








「あー?名前じゃねェか。どうしたんだァいきなり」

いつものだるそうでやる気のない、私の大好きな銀ちゃんが玄関先で息を整える私を迎えてくれた。


それだけなのに、とても嬉しさや愛しいという気持ちが込み上げてきて、思わず抱きついたら、お持ち帰りされてェのかコノヤローと抱き返された。


「…銀ちゃんに任せる」


銀ちゃんはへいへいーと返事をしておでことおでこを合わせてきた。


「それじゃ、甘味処でも行くとするか」


「うん!」

私に問い掛ける死んだ魚の目はとてもとてもやさしくて、私にも自然と笑顔が溢れた。

銀ちゃんが私を体全部で愛すのはきっともっと先のことなんだろうな、なんてちょっと思って
そんな事より、今銀ちゃんとこうやってのんびり過ごせる時間を大切にしようと思った。


蟻さんと、蟻さんと、

080708
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