彼女の背を見つめて歩く仲夏の夜。 星があまりに綺麗で、少し立ち止まっては夜空を仰いで思わず見惚れる。 すると前の方でごんべえが此方を向いて右手を振って私の名前を呼ぶ。 「留三郎ー!早く早く!」 「今行く」 小走りで追い付くとごんべえは川原でしゃがみこんでいた。体調でも悪いのかと心配するも目を凝らして見れば、ただ川を覗き込んでいただけのようで安堵する。 けど、川を覗き込んでも暗がりで何も見えないのではないかと不思議に思い、訊ねたら、留三郎も、と言われたのでそれに従うように、しゃがんで川を覗く。 「…何かいるのか?」 案の定暗がりの川には何も見えず、怪訝そうにごんべえを見ると、此方を見向きもせず、もう、とだけ小言をもらされた。 いや、もうといわれても…。 「星、だよ。水面に星が映っているでしょ。…何だか落ち着かないかね?」 食満、留三郎くん。とまるでどこかの偉い大人みたいに私の名前を口にして、此方を向いて笑う。 その笑った顔が私はとても好きで、少し恥ずかしくなって顔を反らしてしまった。 「…そう、だな」 そのままごんべえの顔を見ずに、水面に映る星を眺めた。 「ねぇ、留三郎。この星ってさ、また何年後かもこうやって二人で見れるのかねぇ」 私より幾つか年上のくせして、こう少しばかり子供じみた事を言う。口調からして、この人は真面目なのだろうから仕方ないのだろうか。 「ごんべえはまた見たいのか」 「そりゃあ、ね。留三郎と一緒なのが落ち着くんだ」 この人はどんな表情でそれを言ったのかが気になって、そうっと隣の人に向く。 ごんべえはどこか淋し気な微笑のまま水面を見つめていた。 そんな表情に、どうしてか胸がちくりとしてすくりと立ち上がった。 「…また、来ればいいだろ、約束だ。」 言ったは良いが、その一言がなんだかとても恥ずかしい告白みたいに思えてきてごんべえとは反対の方向に体を向けた。 「…うん。また来たいな。留三郎と。」 その時は茶菓子とお茶欲しいな、とごんべえも立ち上がったのか、私の着物の背に手を重ねた。 「…やくそく、ね」 まるで自分に言い聞かすように虫の鳴くような声で呟いた彼女の声は夜の帳に消えていった。 か ざ ぐ る ま (くるくる舞われ) (きみのしあわせ) (彼女が嫁いだと聞かされたのは暫く経ったある日の事) 080721 |