梅雨も半ばに差し掛かった今日この頃。とても蒸し暑い。

雨の様子を見ながら忍術学園の廊下を歩いていると、背後からかけ足の音と自分の名前が聞こえたのでふと振り返るとそこには一年は組のきり丸くんが居た。



「きり丸くんではないの。どうしたの」


私がは組の先生であれば、何か授業でわからなかった事でも聞きに来たのかと直ぐにわかるが、残念なことに私はは組の、きり丸くんの先生ではない。
というより、そもそも私は先生などという大それた人ではなく、ただの事務・雑用係として忍術学園で働いているだけだ。だからあまり生徒達との接点がないのが事実。
ただ、は組の良い子達はそれなりにというか、大分というか、接点がある。



何故なら彼らの先生は、私の大切な恋人さんだからだ。




「ごんべえさん」


「ん、なあに?」


駆け足だったきり丸くんは息を整えると、まだきり丸くんよりかは大きい私を見上げると名前をまた呼ぶ。


「ごんべえさん、土井先生と結婚するんすか」
「…随分ませたこと聞くんだね」
「答えて下さい」

真剣そうな眼差しでふわふわした私を見つめるきり丸くんはまるで男性みたいだ。


「するかもね」
「…」
「でもしないかも」

「ごんべえさんはしたいんですか」

訊ね方を変えてきてもその眼差しは相変わらず鋭くて真っ直ぐで痛いくらいだ。
淡々とした会話に雨の音が良く馴染むと思ったが逆かもしれない。
雨の音に、私たちの会話が馴染むのだろうか。


「さぁ、どうなのかねぇ」
「…なんで、土井先生なすか…」



まださっきまでの眼差しの方が良い。
痛いくらいの眼差しでみてくれた方がきり丸くんらしいのに。


いくら年が私より幼くたって、
ただの子供の片想いだと笑ったって、

泣きそうな眼差しはやめたほうがいい。



だって、本当みたいじゃない。



「きり丸くん…」



きり丸くんは私に向けていた顔に曇りを見せてから俯いた。腰の隣には握り拳を作っていた。
私はそんな様子のきり丸くんにどう接していいのか、何をすればいいのかわからなくて、事務室に戻るね、とだけ告げて歩き出そうとしたところで、またきり丸くんは強く私の名前を呼んだ。


「ごんべえさん!何年か経って、俺が…土井先生より強くなったら結婚してください!」


顔を上げて意思の強そうな眼差しで私を見る。
その顔の方がクールなきり丸くんらしくて私はすきだった。

こんな告白だって数年したら恥ずかしい思い出にしかならないんだよ、きり丸くん。

一人の人を永く想っていることは難しいんだよ、きり丸くん。



それでも、そんな彼の思い出の一つに残れるのなら良いな、と思ったので私は右の掌をきり丸くんの頭の上にのせて、大人の笑みを作ってみる。


「ありがとうね、きり丸くん」


そしてそれだけ告げると私は事務室へと続く廊下を歩き出した。


梅雨の出来事が、思い出へと変わり始めた。



080702
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