昔から他人より少しばかり小さい自分の背が気に入らなかった。
みんなには届くものが届かずに、友達には小さいね、とからかわれる毎日。あたしは皆と同じくらいに成長をしなかった骨を恨んでいた。




そして。そんなあたしから見たら、180もある修兵はただの巨人同様だった。
初めて会った入隊式の時。同期と分かってはいたものの身長からくる威圧感で彼に対しては敬語でしか話せなかったのをよく覚えている。

同期の集まりで何度も顔を合わせ話すようにはなったが相変わらず敬語が抜けないでいたあたしを、修兵は面白がっていて、ことあるごとにちょっかいを出してきていた。しかしそれも次第に慣れて、敬語は抜けずにいたけれど、修兵と会ってじゃれることは楽しかった。




『おいごんべえー…?大丈夫か?』

その日は同期の飲み会の帰り道。珍しく酔うほど呑まなかった修兵が、珍しく酔ってしまったあたしを送ることになった。理由は体格差らしい。


『だ、大丈夫です…うっ』

居酒屋からかろうじてふらつきながらも歩いてきたものの、視界がふわふわして、どんと何かにぶつかった。

『あぶね。大丈夫じゃねーじゃねーかよ』

どうやらあたしは転びかけたらしく、隣を歩いていた修兵が抱き留めてくれた。すみません、と謝ると、不安だからおぶる、としゃがんだ背中を向けられた。

『えっ…あの…』

『いーから。ごんべえみたいなチビは乗ったか乗らねーかわかんねーよ』

『よっしゃその勝負乗った!重くて潰れても知りませんからね!』

酔いのテンションで声を上げて、そのまま修兵の背中に被さった。修兵はあたしを背中で抱えるとひょい、と立ち上がって歩き出した。会話の無いまま、ぼうっとした頭を修兵の背中に埋めた。暖かくて広くて、修兵そのものを表しているような背中で、居心地が良かった。


暫くしてあたしの部屋の前に着き、修兵がしゃがみこんであたしを降ろした。

『大丈夫か』

『だ、大丈夫です…』

まだ酔いの覚めない頭でお礼をして修兵を見送るつもりでいたが、修兵は向かい合ったあたしを意味あり気に見たままでいた。

『…ごんべえが好きだ』

そして、この一言だ。

修兵は、返事は酔いが冷めてから考えて、と言葉を付け足し自宅へと帰って行った。
しかし、翌日起きて考えてみれば、酔って夢でも見たのかと不安になったが、その言葉を頼りに次の日修兵に会って確認すれば、それは夢ではない事がわかった。

『…あたしで良ければ』

そう告げれば、修兵ははにかむように笑い、あたしもつられて笑った。



そんな日々から、1年が経った。あたしの身長もじゃれあうのも相変わらずだけど、敬語もぬけて、修兵があの時より、もっと大好きになっていた。



「…やっぱ小さいよな」

「言うほど小さくないし」
二人で修兵の部屋でまったりとしていて、冷蔵庫に飲み物を取りに行こうとした時に、修兵が発した一言。
小さいのは事実だけど、認めるのもなんだか癪に障るし、軽く言葉を返しながら立ち上がって冷蔵庫に向かった。


「や、小さくて抱き締めやすい」

冷蔵庫に向かう前に、立ち上がった修兵に後ろから包み込まれるように抱きしめられた。修兵に抱きしめられるのはまだ恥ずかしいけど、大好きで。だけど、一番好きなのはこうじゃない。

「だから、小さいは余計…」

目の前で組まれる修兵の腕を離すと、そのままの場所であたしは修兵と向かい合うように向きだけをを変えて、修兵を見上げる。


「?」

「こっちのが、好きだよ」

そして、修兵に飛び込み落ち着くのは、修兵の胸元。
あたしが小さくて修兵が大きいため、立ち上がった状態で抱き合うと自然とあたしは修兵の胸に顔を埋める形になる。
そこでは修兵の心音が聴こえてきて、修兵の暖かさを身で感じられて。あたしにとっては最高の居場所なのである。




今まで嫌いだった自分の身長。けれど、この身長だから、修兵とこうして抱き締めあえて、最高の居場所を見付けられた。

だから、今はこの身長が少し、好きだったりして。


「俺はごんべえなら何でもいいけどな」

修兵の手があたしの背中を抱き締めた。

「大好きだよ」

あなたも、温もりも、この身長差も。
全部全部、本当にあいしています。



『 cmの身長差』

110221

空さまへ捧げます

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