小さなマンションの一室。そこが俺の家。PM10時。仕事が終わって、ちょっぴりサービス残業して、ただいま帰宅。 部屋の前まで来ると鞄から鍵を出して鍵穴に差し込む。ガチャリと鍵の開く音を確認してからノブを回してドアを開ける。すると玄関には出掛けた時には無かったブーツが一対、行儀よく並んでいた。 …ごんべえのブーツか? ごんべえとは付き合って二年目になり、俺が部屋の合鍵を渡している唯一の人物。 しかし、ごんべえはこのブーツの置き方通りのやつで、自由に出入りして良いからと合鍵を渡したのに、部屋へ来るときは必ず連絡をする律儀なやつ。今日は来るなんて連絡も貰ってないし、普段の事を考えると不思議ではあるのだが。 「…ごんべえー…?」 後ろ手で鍵をかけると、そのまま明かりが漏れる部屋へ向かった。 部屋のドアを開けると、床に座りながらベッドの上で組んだ両腕を枕代わりに頭を預けてごんべえが眠っていた。 「…ん…あれ…修兵…?」 物音で目が覚めたのか、ゆったりと体を起こすとまだ眠たそうな目で俺を見た。 「起こしたか?」 「あぁっ!ごめんっ…!勝手に…」 「いや、勝手に入るために渡したんだし…じゃなくてどうしたんだよ、珍しいじゃねーか」 「ごめん…。ネックレス、修兵ん家に忘れたのに気付いて、仕事帰りに急いで取りに来たんだけど…」 「?」 目を合わさず恥ずかしげにもじもじしだしたごんべえ。少しすると決心がついたようで、ごんべえは上目遣いで見つめてきた。どうしたんだ、一体。 「…あの、ひかないでね?」 「?お、おー…」 「…修兵の、匂いが…その心地好くなっちゃって…つ、つい」 寝ちゃった…。と顔を俯かせて言うごんべえ。…そういうことか。 きっと顔を赤めているんだろう、見なくても想像がついてしまい、くすりと思わず笑いが込み上げた。 「…わ、笑った…!」 ひどい!と顔をあげて怒るごんべえの顔は案の定赤くなっていて、そんなごんべえを見ていると仕事で疲れていたはずの身体も心も一気に解された気がした。 込み上がる笑いを堪えながら、悪いと謝り腰を下ろしてごんべえの体を抱き締める。 笑った事に対しての文句を言いながらも大人しく抱き返してくるごんべえ。抱き締めながらシャンプーの匂いなのだろうか、落ち着く良い匂いがしてきて、ごんべえじゃないが本当に眠くなってきそうだった。 残り香と、うとうと 110127 |