「…!」

「…何してんだよ…」


夕方5時。放課後の薄暗い教室にての出来事だった。

足音が聞こえたかと思えば、いきなりドアが勢いよく音をたてて開いて、ドアとは反対を向いてうつ伏せていた顔を反射的にドアへ上げた。

するとそこにはクラスメイトの姿が。オレンジ髪だし黒崎だ。

びっくりしている黒崎は何してんだよ、と口にしたが、申し訳ない。あたしは今やさぐれたい気分なんだ。普段はそれなりに仲良くしている彼だが、あたしは「帰れ」とだけ告げてまたさっきの体制に戻る。



しかし残念ながら、彼は何かを忘れたようで(じゃなきゃこんな時間に教室に来ないわな)、もっと残念なことにあたしの隣は彼の席。

右隣に気配を感じた。

隣からはがさがさと机の中を探る音。あたしの目線は真っ暗になった外の世界。

「…たく、プリント取ったら頼まれなくても帰るっつーの」

「…さっさと帰れ、バカ」

するとがさがさと探る音が止んだ。その代わりにぎぃっと椅子が動く鈍い音。…椅子?

黒崎の行動が読めなくて、また顔を上げてしまった。隣を向くと椅子をこちらに向けて座ってる黒崎が。帰るんじゃないのか、おい。

「…」

「バカはオメーだろ。帰ってほしいならそんな顔してんな」

何あったんだよ、
そう言った黒崎の顔は何時にもなく真面目で、あたしを見ていた。


あたしは胸が熱くなる思いがした。固まっていたのが、ゆるくなるような。そんな気持ち。

この気持ちを手放したくなくて、でも素直に甘えることも出来ない。あたしは、「うっせー…」とだけ呟いた。ぶっきらぼうにぶっきらぼうを重ねたような最悪の呟き。それでも黒崎はきっと此処に居てくれる。不思議にそんな気がしたのだ。


それから先生が見回りにくるまでの時間、何も喋らずにただ彼はそこに居てくれた。
観念した帰り際、柚子に怒られると怒るように呟いていたが、しっかりと私を家の近くまで送ってくれた。

「…なんかあったら連絡しろよ」

そう言って手渡されたのはノートの端切れ。
私が受け取ると黒崎は踵を返して来た道を引き返した。
よく見ると端切れには携帯の番号とアドレスが。

「…なんか、やられた気分…」

心配されてるのが悔しいようで、なんだか嬉しい。

帰ったら電話してみよう。端切れをブレザーのポケットにしまうと帰路を急いだ。


ぶっきらぼうな気持ち
(もしもし?…ありがとう)

110111
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