宝物があった。遠い昔に家族だった人に買ってもらった風車。
縁日で見付けたとき、平凡な風車であるはずが、その時のあたしはなぜかいたく気に入ってしまい、駄々をこねてまで買ってもらった大切な宝物。
しかし、その宝物もいつの間にか壊れてしまい、今では何処にあるのかすらわからない。多分捨てたのだろう。
大切な宝物だとしても、いつかは手放す時が、手放さなきゃいけない時が来るんだと思った。


彼が大切な宝物だとして、その手放す時が来るんだとたしらそれは、多分今なのだろう。


「…好きな、人?」

仕事が終わると、修兵はあたしを、あたしは修兵を見付けて一杯呑んで帰る。特別な約束をしているわけでは無いのだが、どうしてか十三隊に入隊してから毎夜毎夜こうだ。
お互い恋人が居るわけでもないからか、霊術院から仲が良いからか。
理由はどうであれ、あたしはこの時間がすごく好きだった。業務で失敗しても、嫌なことがあっても、こうやって修兵に会って話すと気持ちがふっと軽くなるのだ。

だが、それは今までのことで。今日はどうだろうか、店に入って落ち着くと修兵が柄にもなく照れながら、好きな人が出来たと話した。

思わず聞き返してしまったが、修兵はあたしから目を逸らすようにして、おう、とだけ頷いた。

「…へぇ、良かったじゃん」


その時に風車のことを思い出した。宝物は、いつか手放す時が来る。
この人が、この時間が宝物のように感じられるのなら、それだって手放す時が来て可笑しくはない。ましてや今回の宝物には心がある。時が流れてる、仕方ないことなのだ。

胸は苦しかった。修兵と好きな人が上手くいけば、こうして約束もしていないのに呑んで帰るなんて出来なくなる。日常が、非日常へとどんどん移り変わる。


「ま、頑張ってよ…応援してるからさ」

笑顔を作ったつもりだが、苦笑いになっていたらどうしようと思った。大袈裟だけど、彼は新しい道を見付けたんだ。あくまであたし達は友達で、それ以上に何も無かったのだから。
誰が、彼の恋心を止められよう。


修兵も好きな人が出来たことだけを伝えたかったらしく、そのあとは自然と話が切り替わった。
今日あった嫌なこと、楽しかったことを話すいつもの会話に戻った。


「…もっと頑張んなきゃなー…」

話と話の合間に彼の呟いた一言。

本心から応援するのは少し辛いけれど、八割は本心からだから、頑張れよ、と心の中で呟いた。


宝物

(達者で居ろよ、宝物)
((早く気付けよ、この気持ち))

(二人の帰り道)


101228
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