冷たい風に身震いがした。枯れ木に落ち葉、冷たい風にどんより空。寒いわけだ、とマフラーを口元まで引き上げる。
しかし寒いものは寒い。早く室内に入りたいという一心から、間近に迫っている隊舎まで小走りをした。

隊舎に着くと暖房が入っていて冷えた身体が一気に暖まった。マフラーを取りながら執務室へと戻ると、ここには居るはずの無い、でも私には見慣れた人物である修兵が松本副隊長と話していた。


「あら、名無史之お帰り〜っ」

修兵に気を取られてしまい、あろうことか帰宅の挨拶を忘れていると、私に気が付いた松本副隊長が私を迎えてくれた。

「あっ、た、ただいま戻りましたっ!」

「お疲れ様、寒かったでしょう、暖まりなさいな」


慌てて挨拶をすると、松本副隊長は笑顔で労ってくれた。ありがとうございます、とお礼を言いながら修兵をちらりと見た。涼しい顔して、私に気付いてるはずなのにこっちを見向きもせず知らん顔のままだった。


「…。それじゃ俺はこれで」

「わかった、隊長には伝えておくわね」


松本副隊長に一礼をすると、私の居る出入り口に向かってきた。それでも目先は私から逸らしたまま。

「しゅ…」

目の前を通り過ぎようとしたので、笑顔を取り繕って名前を呼びかけかけたが見事スルー。

空しさが胸に込み上げたが、どうすることも出来ずに修兵の通り過ぎた場所から目を離せずに居ると、ぽん、と肩に手を置かれた。

「松本副隊長…」

振り返ると何かを察したような副隊長の微笑みがあった。

「知り合い?」

「…幼なじみ、なんです。昔からの…」

「そう…。ねぇ、ごんべえ。さっき修兵に渡し忘れたんだけど…届けてもらってもいい?」

副隊長の手には一枚の書類。それが本当に今渡さなければいけないものかはわからないが、ただ副隊長の優しさだけは感じることが出来た。

「松本副隊長…」

「大丈夫よ、いってらつしゃい」

そう笑顔で副隊長は私の背中をぽんと押してくれた。

今ならまだ近くに居るはず。そう思ってマフラーも忘れたまま駆け足で隊舎を後にした。






「……兵…っ!」

探し始めて少しもしないうちに修兵を見付けることが出来た。慌てて駆け寄って冷えた左の手首を掴んだ。


「ごんべえ…!?」

修兵は驚きながら振り向いて、息を整える私を見下ろした。

「なんで…」

「なんでは、こっちの台詞だよ…!」

膝に手を着いて屈みながら修兵を睨んだ。でも修兵は相変わらず私と目を合わせようとはしなかった。

修兵とは流魂街からずっと一緒で、統学院に入学したのも一緒だった。なのに、統学院に入って暫くしてから徐々に目を合わせてくれなくなって、話さなくなって。
死神になってから顔を合わすことは何度もあったけど、何処か溝を感じていた。あの頃と全然違う。

「なんで昔みたいにろくに口もきいてくれないの」

「なんで…目すらも合わせてくれないの…?」

話てる途中で思わず涙が漏れた。

「悪いことしたなら教えてよ…修兵がわからないよ…っ」

すると突然掴んだままだった手首が私の手のひらから消え、その次の瞬間に私は抱き締められていた。


「修…兵…?」

「馬鹿…人の苦労も知らねぇくせに…!」

言葉と共に、私を抱き締める力が強まった。

「ずっと…ごんべえが好きだったんだよ、」
「けど、この気持ちが知れて一緒に居れなくなるくらいなら…その前に自分から距離おこう、って…」


止まり掛けていた涙が、また溢れてきて修兵の肩を濡らした。


「…ず、ずっと…不安だったんだよ、嫌われたんじゃないかって、ずっと…っ」
嗚咽で震える私の両手は修兵の死覇装を握りしめた。
「あー…もう本当に済まねぇ。こんなやり方しか思い付かなかったんだよ…だから、」


私の両肩に手を添えてそっと距離を作る。修兵の目にはさっきとは違い、しっかりと私の泣きべそが映った。


「今までの分も埋めるくらい、ごんべえを愛す。だから、付き合ってくれ」

「…うん…っ」


次から次に溢れ出てくる涙を彼はあの頃と同じ優しい笑顔で拭ってくれた。ずっとずっと寂しかった分の涙。まだ当分は治まらないけど、寂しくさせてたんだからそのくらい良いよね?


さっきと同じ寒空も、二人なら暖かいくらいだ。


寒空ラプソディー
(君を愛します)
(あなたを愛します)


fin

おまけ

「…目くらい合わせてくれたって良かったのに」
「…ドキドキしてまともに見れなかったんだよ」
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