気に食わないな、もう。


『あんた男でしょ、なんでいつもいつも、そうやってメソメソするの』

そう言って私が頭を叩くのは、そいつが泣くとお決まりになっていた。
そいつは、だって、と言って叩かれた頭を擦りながらまた涙するから、収集が付かなくなって最終的には河原に座ってそいつが泣き止むのを待って日が暮れるのが常だった。


それが今はどうだろう。


あれから何十年が経ったか、危うく百年も経ってるかもしれない。



「ったく、なんでそんなメソメソすんだよ」

面倒臭げに口にするのはあの時の泣き虫で、

「ひっく…だって…っ」

口答えをしてまた泣くのは私、なのだ。

その上、泣き虫こと修兵の大きな手のひらは頭を叩くのでなく、頭を撫でているのだから驚きだ。ぽんぽん、と幼子を慰めるように。
ああ、気に食わない。あの頃の私に見せてやりたい。あんた今に立場がひっくり返るから。覚悟しとけ、って。覚悟しておけばこんなに気に食わないと、頭の上にある手のひらと、その手のひらを振り払えずにいる自分自身に癇癪を起こすことも無かったのだろうか。

気に食わない。


ましてや、そんな気に食わない相手に惚れてたと今更になって気付くなんて、


ああ、本当に、気に食わない。


end.

形勢逆転

101116
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