「生きてっか」

「…辛うじて呼吸はしてる…」



冷たいフローリングの床に倒れるようにうつ伏せるあたし。死体ごっこか。
思わぬところで私を見下ろすコイツが鍵を掛けてない事を知ってか知らずかのこのこやってきた。
ま、暗い部屋でうつ伏せる人物を見ても微動だにしないところは買ってやろう。あれ、あたし何様だ。

「死んでンのかと思った」
「一時間前のあたしの予定ではそうなるはずだった」

なんとなく人生というコレが嫌になってきて、それならいっそう死んでしまおうと不穏な考えに行き着いたものの、痛みが伴う死に方も苦しい死に方も嫌で、そうなるとさほど頭が回らないあたしは死ねないのかと落胆。そしてフローリングに倒れた。打ち所悪ければな、と淡い期待を込めて。それが一時間前の哀れなあたし。

「死に損ないか」
「うっさい」

相変わらず暗い部屋でうつ伏せたままのあたしと、それを見下ろす恋次。そんなあたし達の間に少しの静寂が訪れるとフローリングの軋む音がした。恋次が歩いてるのか。カチッとスイッチが切り替わる音がすると、暗かった部屋に明かりがついたらしくうつ伏せのあたしの周りも明るくなった。

「起きろ、死に損ない。」
「…殺してくれたら」
「誰がお前の為に犯罪者になるか、阿呆」

それもそうですよね。観念して、両手をフローリングにつきながらむくりと体を起こした。ソファには缶ビールを手にした恋次が座ってて、前のテーブルには缶ビールと缶チューハイが入ったレジ袋。ちゅぴーん。なんかキた。


…あ、あたし死に損なってなかったんだ。


恋次、おはよう。お前は寝言喋ってたのか。ううん、違う、君の顔見たら生き返った、それだけ。


end

一回死んだ

101109
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