※少し酷い修兵話(BL要素有り) 好きだと言葉にして彼に伝えてしてしまったのは1年前の私だった。 そうしたら彼は私にキスをして、付き合おうと言ってくれた。その時の私は幼いもので、キスをしてくれた、付き合おうと言ってくれた。それだけで彼も私を好きなんだと信じ、疑うこともしなかった。 今になって思い返してみれば一度だって『好き』と確信のある言葉を言われた事は無く、その事実に今になって気付くとはほとほと呆れる。 そうだ、思えばいつだって彼の瞳に私はうつっていなかった。 原稿の〆切が明日だと聞いていた。それなら〆切前日の今日はいつも通り残業だろうから何か軽食をと、差し入れを持って九番隊の執務室の扉を開けて広がる光景に私は驚愕した。 「…え、」 在り来たりな表現ではあるが、”何があったか理解出来ない”そのもので、(否、理解したくなかったのかもしれない。)その光景というのは、恋人がキスをしていた。 私とではなくて。 阿散井くん、男の人とだ。 相手が誰かなんて髪の色で直ぐにわかった。あんな髪の色、他に見たことないし。 唇を離す修兵と目が合った。 …あんなに愛おしそうにキスする人だっけ。 私が知っている恋人の修兵は其処には居なくて、私が理想としていた恋人の姿が其処に居た。 「…、ごんべえ…」 「名無史之…っ!」 冷静な修兵の声と、顔を赤くして慌てる阿散井くんの声。 私は彼らに対して失望に近い眼差しを送りながら立っていることしか出来ずにいた。 「名無史之っ、これは…っ!」 「阿散井。」 阿散井くんの必死の弁解を制したのは修兵で、阿散井くんの肩を軽く叩いてから私の方へ足を向けた。 「ごんべえ、悪かった」 修兵の口から出てきたのは、弁解の言葉でも、私たちの関係を取り繕う言葉でもなくて、たった一言の簡潔な謝罪だった。 「…そういうこと、なんだね」 思い返したら合点がいくことばかりだったし、涙が出てくるというのはなかった。 しかし、 ただ、ただ。 愛されていなかった、という事実が頭なのか胸なのかにズキズキと突き刺さるだけだった。 「…、さようなら」 私は最後に彼に対して笑ってみせると踵を返して駆けた。 後ろからから彼が追ってくることも、声が聞こえることも無いまま、隊舎を後にして見上げた夜空の月も星も、私の瞳には映らなかった。 瞳に映るもの 左様なら、 本当にさようなら。 愛しい人 101028 |