ガシャン、ガシャン。

金属同士が擦れ会う音と、揺さぶられるような振動が、床についた身体の下から伝わってくる。
エンジン独特の細かい振動と、上下の大きな揺れは、数分ばかり乗っただけでは慣れない。

所謂、【鋼機】に乗ったのははじめてのことだ。
チョコボとはまた違う移動手段で、俺達は皇国領イングラムに向かう途中だった。

その鋼機とは、白虎の軍事鋼機ストライカーに似た物。
諜報部が集めたパーツで作った、擬きというやつだ。
とはいえ、造りはまんま白虎のそれで、見分けがつかない。

今回は、敵陣のド真ん中での任務のため、目的地に辿り着くまでは見つからないようにしなくてはならない。

その為、こんな乗り心地の悪い狭い密室で我慢を…いや、文句は言えないか。


「エイト、顔真っ青だよぉ?大丈夫?」


妙に間延びのした声に、視線をゆるゆると動かす。

その先には、心配そうに眉を八の字にしながら顔を覗き込んで来るジャックの姿。
彼だって、乗るのは初めてだろうに、何故平気でいられるのだろうか。

エイトは理解できずに眉をしかめたが、再び襲ってくる吐き気にウッと口を塞ぐ。


「ちょ、そんなに酷いの!?」

「へ…、き、だ…」

「全然平気って顔じゃないし…」


大声で声を掛けるのは逆効果だと悟ったのだろう。
ジャックはエイトが聞こえる程度の音量で呟くと、大袈裟に項垂れた。

対してエイトは、どうにかしてこの吐き気を晴らそうと必死だった。
このまま任務を開始してしまえば当然支障が出るし、下手をすれば命にも関わる。

他の候補生とも違って0組は、マザーがいれば瀕死だとしても助かるだろう。
しかし、だからといって中途半端な参加はしたくなかった。

誰だってそうだ。

死にたくはない。


「エイト、深呼吸。」

「、…」


ポンポン、と吐き気に差し支えない位に気を使って背中を撫でるジャック。
必死になっているうちに、いつもの呼吸のペースが崩れ、細く浅くなっていたようだ。

それを指摘されたエイトは小さく頷き、背中を上下する手に合わせて深く息をつく。

心なしか、微かに緩んだ眉間のシワに、ジャックはほっと息をつく。


「緊張、してたんだねぇ」


早く気づいてあげられなくてごめんね、と苦笑を溢す。


「…なん、で…お前が、謝るんだ…」


少しだけ苦しそうに口許を押さえながら、エイトはジャックを見遣る。
目には何もないのに謝る必要はない、と露骨に表れていて、吐き気で上手く話せない代わりに目で訴えているんだろうなぁと、思考の片隅で考える。


「エイトが苦しそうだと、僕、悲しくなるよ」


困ったように笑いながらも、背中を撫でるのはやめない。
彼なりに、その行動に優しさを込めているつもりなのだろう。

薄々ながらもそう気づいたエイトは、じっと動かずに、されるがままにしていた。

気恥ずかしいのもあるが、どちらかというと昔に戻ったみたいで嬉しいとも思っていた。

撫でる、という行動だけでも、安心を与えられるということを教えてくれたのはマザーだったろうか?

でも、撫でる人がマザーではなくジャックだったとしても、それは変わらない。
現に、どこか安心しているのだから。


「さっき、任務に支障出るなぁ〜とか考えてたでしょ?」


何故、考えていたことまでもが筒抜けなのだろうか。
不審にも思ったが、嘘をつく理由もないので、大人しく頷いておくことにする。

大概、ジャックも勘は鋭い方なのだ。
普段の態度がどうであれ、そこは戦場に身を置いているだけあると思う。


「…よく、分かったな」


「まぁねぇ〜。…僕も…それは怖いし」

「…す、まない」

「……え?違う違う、エイトが悪いんじゃないよぉ〜!」


素直に謝れば、彼は慌てたように弁解してくる。

エイトは知っていた。
ジャックは自分の身を心から案じてくれているのだと。

今も背中を優しく撫でる手は止まらないのだし。


「だから、ねぇ?無理しないでさぁ…いざとなったら誰かに代わってもらおう?」


滅多なことでは任務も鍛練も怠らないエイトのことだ。
任務のある現地についてしまえば、緊迫した空気のなかで気分が悪いから代わってくれなどと言えるはずもない。

それはエイトに限らずだが、特に彼は痛みや辛さを我慢して閉じ込めてしまうから。
ジャックはそれが心配で心配で堪らなかった。

気分が悪いのなら、今すぐにだって魔導院に戻ってマザーに診てもらって、ゆっくり休んでいてほしいくらいなのに。


「皆だって、エイトが調子悪いって分かれば心配するはずだよ…」


悄気たジャックの姿を見て、エイトもだんだん居たたまれなくなってきたのだろう。
分かった、と呟いて、ジャックのセットされているふんわりとした髪を崩さないように撫でて頷いた。


「…調子、いいやつに…代わってもらう」

「ホント?」

「ああ、本当だ」

「そっか、うん…良かった〜」

「ありがとう、な。」

「えへへ…」


エイトの珍しい申し出に、気をよくしたらしいジャックは、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。



   well being




end
12/05/01



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