女々しいのは嫌いだ。
煩いのも、目障りなのも。
バカも嫌いだし、弱いやつも嫌い。

あたしにとって害になるものなら、それは全て必要のないもので、敵。
あたしにはマザーだけいればいい。
何を犠牲にしてでもマザーの命令だけを全うして、そうじゃないときはあたしの心に従う。

…って、前まではそうした無駄な意地を張っていた。

我ながら子供染みているなとも思うが、そうじゃなきゃあたしはあたしをやってられなかった。
どうせなら、一度捨てたこの命は、拾ってくれたマザーに捧げようと考えていた。
それだけが、あたしの命の使い方なんだと、思い込んでいたから。

だけど、あの日手を引かれて連れていかれた施設で出会った“兄弟”が、幼かったあたしの決意を変えてしまった。

その11の存在は、あたしの世界が広げて、それに比例して弱味を増やした。
重荷だったはずなのに、易々と担いでしまったあたし自身に自分で驚愕した。

アホらしい、何処かではそう呟いて彼らを突っぱねるのに、目はいつだって彼らを追った。
何がそうさせているのか、あたし自身でも分からなかったし、マザーに聞いても「さぁ、分からないわね」と優しく微笑まれただけだった。
マザーにも分からないなら答えはないのだろう、その時はそれで納得した。

だが、その答えは日を追う毎に段々と見えてきて、同時に戸惑うようになった。
それは…あたしが生きていく上で必要がないとして過去においてきたからだ。
馴れ合いも、情けも必要ない。
愛情も同情も、そんな無駄な感情は要らなくて、あたしには醜い“執心”だけでいいと決めてきた。
なのに、あの日を境に無駄な感情ばかりを受け取ってしまって、あいつらと共に生きていくことすら厭わなくなった。
あれほど、馴れ合いを避けてきたのに、だ。


「サイス」

「…あん?」


…しまった。

と気付いたときには返事すら呑気に返してしまっていて、呼んだ当人は微笑むのだ。

名前を呼ばれること自体で拒絶していたはずなのに、今のあたしは気づけば何らかの反応を示して、いつの間にかこうして関係を作ってしまっている。
無意識に返事をしてしまうから、もうすでに対応しきれなくて、思わず頭を抱えたくなった。


「眉間に皺寄ってるぞ」

「…っせーな…ほっとけ」

「考え事か?」

「別に」


ふーん、と興味津々な癖して興味無さげに演技振る舞うこいつは苦手だ。
別に嫌いな訳じゃないが…

…って、ちがう!


「あんまり難しいことを考えてると疲れないか」

「…別に」

「…私とはリフレ行きたくないか?」

「…別に……って、は?」

「ふふっ」


無邪気な表情で笑うこいつに、カッと顔が熱くなる。


「ってめ…ハメたか、今!」

「考え事なんかしてるからだぞ」

「むっかつく」

「さあ、行こう。サイスはシャーベット好きだろ?」


早く、と急かした様子であたしの腕を引く真っ白な手。
それとこいつを交互に見て、じわじわと競り上がってくる熱を隠すように眉を寄せた。
しかし、それすらも気にした風もなく、こいつは腕を引く力を強くした。


「おい、何でそうなる!」

「今さっき言ったじゃないか。サイスには糖分補給が必要だよ」


要らん世話だ!半ば叫ぶように反論するが、照れ屋だなぁと一蹴をくらう。
そういえば、口喧嘩でこいつに勝った記憶がない。
先に口を開いたあたしは、結局最後には丸め込まれてしまう。
実践ならば負ける気はしないというのに。

よりいっそう眉をしかめると、それを怒っていると勘違いしたのか、眉尻を下げて寂しそうにする。

「…私の奢りだ。だめ、か?」

「……」


断れるわけがない。
否、断るはずがない。
こいつの、この上目遣い(あたしより背が高いくせに上目遣いは無いだろ)は反則だと思う。

思わぬショックに半ば言葉を失っていると、それを肯定と取ったらしいこいつは再びあたしの腕を掴んだ。


「一緒に食べた方が美味しいしな」

「…他のヤツ誘えよ」

「私はサイスと食べたかったんだ」


誰でもないサイスと、極上の笑みを浮かべて笑ったこいつの無自覚は本当に恐ろしい。
あれだけ断っても、辛辣な言葉を浴びせようとも、あたしは上手く丸め込まれて、結局は付き合うしかない。

…いや、あたしは寧ろ、付き合っていたいのかもしれない。

多少強引でも、こいつのことはどうにも嫌いになれなかったし、他の兄弟同様、いつも見ている対象でもある。
だからこそ、誘いは断れないし、頼まれたら力になってやるかという気になってしまう。


「…しゃあねぇな」


今だけは、こいつのわがままに付き合ってやってもいいか、とあたしらしくもなく諦めることにした。







   G
et astray








end.
12/05/30



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