それはなんだ?と尋ねたら、飴だよ、と返ってきた。

そんなことは言われなくても分かっている。
私が聞きたいのは、何故それを此方に突き出してくるのか、だ。

発達途中の未熟で華奢な白い両手が握るのは密瓶。
その中には見ただけでも甘ったるそうな飴玉が入っていて、弄ばれてはコロリコロリと可愛らしい音をたてる。

もう一度彼女に問うた。
それはなんだ?と。


「何味がいい?」


全くもって、彼女とは会話が噛み合わない。
今までだって大半はそんな会話で、欲しい答えは返っては来なかったし、寧ろ、流されて会話にすらならなかった。
翻弄されているのはいつだって私の方で、段々とまともに取り繕っているのが馬鹿らしくなる。

…今に始まったことではないが。


「あのね、あのね、新しい飴を貰ったの。」


彼女は本当に嬉しそうに笑った。
純真無垢、とは彼女の事を指すのだと思う。
自由奔放に、自分の心には素直に、思ったことは口にして、表情は心に従って。

故に、彼女の心がその場に似つかわしくないところにあれば、場違いなものになる。

けれど、彼女はそれが自分なのだときちんと理解していて、私に拙い子供の言葉で説明した。

彼女は自分の身の回りで起きたことを経験として私に話す。
あのね、聞いて。
そう前置きをして語りかけてくるときはいつだってそうだ。

しかし、彼女自身の気持ちや思ったこと、行動したことを話されたことはほとんど無い。
以前、自らの手で選んだという武器の経緯を尋ねたが、どうせなら重い方が大きなダメージを与えられる、と呑気に笑った。

彼らの中には武器に選ばれた、呼ばれたような気がしたから、と話す者もいて、やはり、彼女のような理由は異色だった。
けれど、それは彼女らしさでもあって然して気にはならなかったし、突き詰めようとは思わず、そうか、と答えて終わった会話だった。
今思えば、その時が初めて私が終わらせた会話だったような気がする。


「たいちょ。」


つい、と差し出されたのは青く丸いモノ。
霜が降りたように白く小さな結晶に身を包んだ、一口大の飴玉だった。
それを受けとるか否か迷っていると、密瓶を置いた左手に右手を引かれ、その手のひらに塊は落とされた。

一体、これをどうしろというのだ。
食えとでもいうのか。

視線だけで訴えたが彼女は素知らぬ風で、教卓に佇むトンベリにも飴玉を渡していた。
同じように霜がついた緑色の飴玉だった。


「ちゃんと食べてね?」


誰かにあげちゃ、ダメだよ。
たいちょーとトンベリには特別にあげたんだからね。
そう言って、彼女は桃色の飴玉を口に含む。

―カラン、コロン

歯に当たっているのか、軽快な音をたてて踊る。
トンベリは彼女を不思議そうに見たあと、此方を見上げて首を傾げた。
恐らく、食べていいのだろうかと尋ねたのだろう。

私はそれに頷いた。
毒ではないし、トンベリが食べても問題はないと判じたからだ。
飴玉をパクリと含み、彼女の見よう見まねで辿々しく舐める。
彼女はそんなトンベリを見て、おいしい?と伺いながら撫でて、嬉しそうにまた笑った。







  H
olly blue drop








end
12/04/30




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