C
※微エロ(R15位)
どろり。
蕩け出でたその液体は熱く、嚥下するのが酷く躊躇われた。
さあ、はやく。
彼は手に取ったそれを自らの口に運びながら、影のような笑みを浮かべる。
かつ、と割り砕けば、俺のものと同じように冷たくて熱い液体がこぼれ落ちて、つつーっと顎を伝って…。
それを見て眉をしかめる。
口のなかに未だに残る、熱くて苦いものと、その熱で溶け始める酷く甘いものに。
彼はそんな俺を見て、もう一度クスリと笑って、猫撫で声で嘗めるように、甘くささやく。
「美味しくなかったかなぁ?」
美味いも不味いもないだろう。
つんと鼻先を漂うのは、アルコールのそれだ。
割って出てきたそのトロリとした液体を認めて、やっと騙された、と思った自分を叱咤した。
だってこれ、ウイスキーボンボンじゃないのか。
喉元がヒリヒリして仕方がない。
「こっち、向いて」
「なん、」
再び、ムッとするような酒の匂い、そして先程とはまるで違う熱さが口元を辿った。
割って入ってきたそれはやはり新しい固形のウイスキーボンボンで、ころりと口の中で躍り、やがて弾けた。
「ん、ん…!」
このやろう、ふざけんな。
殴ってやろうかとも思ったが、正直そんな気分じゃない。
仕方なくこの空気に流されてやろうと決めたが、いや、まずその前に。
喉が、鼻先が熱い。
こんな微量のアルコールにあてられたなんて考えたくもないが、血液がさらさらで流れのいい場合や激しい運動をした直後は、アルコールは早く全身を回るのだと聞いたことがある。
そんな話をするのは大概トレイ位のものだが、今回ばかりは曖昧に流していた自分に少しだけガッカリした。
勿論、真偽は確めた試しがないが、実際体験してみるとこうも酷いのか、と頭を抱えたくなる。
…ちがう、場酔いだ。
物凄く否定したい。
チョコレートとアルコールは相性がいい。
甘さと苦さが混ざりあってなんとも言えなくなる。
先程、美味いも不味いもないとは思ったが、確かに美味いとは思う、けど息が苦しい。
「…う、ぅ…んむ…!」
「あ、ごめん」
「こ、の…ばか」
「バカは心外だよ」
酷い、そう言いたげに肩を竦めた。
ジャックは、酷く扇情的な表情をしている。
アルコールのせいなのか、綺麗な瞳はうっすらと膜を纏っていて幻想的な色を放つ。
その瞳には酷く動揺したオレの顔が、瞬いては映った。
ぺろり、口元を汚していた甘いチョコレートを舐めとった赤い舌。
いつもは撫で付けられている髪は降りていて、幼く見えるのに妖艶で、もう誘っているようにしか見えない。
いや、誘っているんだろうが、今回ばかりは此方が流されてしまいそうだ。
「…美味しいでしょ」
「そこは疑問系じゃないのか、普通」
「だって、おいし〜って顔してたもん」
「……」
「はいはい、もう一個ね〜」
無言を肯定と取ったらしいジャックは包み紙からチョコレートを取り出して、もう一度口に含む。
そうして右腕で俺の腕を掴み、軽く引き寄せる。
「…またやるのか」
「美味しかったんでしょ」
「……ばか」
重なりあって、お互いの熱で溶けたチョコレートは容易く割れて、どろどろになったそれとアルコールを分かち合う。
音の無い静かな接吻で、しかし酷く甘ったるい一時。
あれほどアルコールなんて、と遠ざけてきたというのに、自分も案外甘かったようだ。
…懲りないな、全く。
今だけはこの熱に免じて流されてやろうと人知れず思った。
chocolate kiss
end
12/04/29
[栞]