※シリアス、暗、間接的に死ネタ














「この墓の人、俺たちの隊長だったみたいだ」


ポツリと呟いた隣に座るエイトを見る。
その顔はどう表現したらいいのかわからない。
泣いているのか、笑っているのか、いやどっちでもないのか。
僕にはわからない。


「ナインやケイトに聞いたんだ。そうしたら、クイーンにも墓参りにいけって…」


腕を引かれてやって来たそのお墓には、"くらさめ・すさや"と刻まれていた。

花が気休め程度に手向けられていたけれど、きっと0組の誰かだと思う。
僕だって、彼が隊長だったって話は聞いたし、その性格や対人関係の噂だって耳にした。
総じていうなら、冷たい人、だったらしい。

覚えてないから、今更確かめる術もないけれど、そういう認識しか残っていないってことは、皆そう見てたんだろうなって思う。
隊長として関わりのある僕ら0組や、彼と仲の良かったひとが花を手向けていったんだと考えるのは至極自然なこと。

…なんだけど、やっぱり何かが引っ掛かるんだよね。

その場に座るエイトの肩越しに墓をまじまじと見る。


「ねぇ、エイト…」
「…ん?」
「この人、本当に隊長…だったのかな?」
「何で、そう思う?」
「だって、分からないんだ」


何で、エイトはそんな顔をするの?
何で、冷たい人って噂されてる人のこと、そんなに思い詰めるの?
何で、こんなに…

虚しいんだろう?


「ジャック」
「なんで、そんなに悲しそうにするの?こんなにたくさん死んじゃってるんだよ?」
「………ジャック」
「何百何千っている中のたった一人なんだよ?どうして…」
「もう、いい。」


言うな。
言葉の続きを拒絶されて、二の次が続けられなくなる。

隊長だからといって、僕にはそんな顔できないよ。
だって、もう心の何処かは大穴だらけで…隊長がいなくなったからって何の感情も浮かんでこないんだ。
クリスタルの加護は、僕らと彼らの思い出を全て消し去ってしまうから。
もしかしたら、楽しかったり嬉しかったり、そんな時間を共有した間柄だったかもしれないけど…それすらも僕らには残っちゃいないのに。


「お前は、苦しいんだな」
「……え?」
「彼らが死んで、悲しいんじゃなくて。彼らの記憶がなくて、思い出せなくて苦しんでる。」


違う、違うよ。
苦しくなんか無いよ。
だって、僕は死んだ人のことなんてどうでもいいんだから。
でも否定できない僕がいる。
どうして?
マザーや皆がいれば、それで満足してるはずなのに。


「お前はさ、皆の為に笑う。けど…もしその皆がいなくなったら…今みたいな顔をするのか?」


まっすぐ僕を見てきたエイトの赤い目に、少しだけ眉をしかめた僕の顔が写って、吃驚する。
慌てて、笑顔を取り繕うとしたけど、上手くできなくて、あやふやな顔になっちゃった。
エイトは、無理しなくていい、って呟くと、またお墓を眺めた。


「だから、そういう事なんだと思う。」


悲しいんじゃなくて、苦しい。
俺達が彼らの死に対して抱いてる感情はそれなんだと思う。
エイトは自分に言い聞かせるように、俯きながら呟いた。

クリスタルの加護は厄介なものだ。
僕たちが悲しまないように、先を歩けるように死者の記憶を消すんだと、誰かが言ったのを覚えてる。
その言葉は、僕の心に棘のように突き刺さっていた。

もし、彼らの記憶があるのなら、僕らはどんな感情を抱いたのだろう。
悲しい?
ちょっと違う気もする。

でも。


「やっぱり知ってた人が死ぬのはさ。」
「ああ。」
「…怖いかなぁ…」


忘れられる、忘れてしまう。
そう考えたら、もうクリスタルの加護があってもなくても、【怖い】って感じちゃうよ。

こうして、形だけの存在になって、誰の記憶にも残らないなんて。


「なんて、残酷なんだろうね」




    naked




end.
12'03'08



[]



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