気になる子がいる。

そんなことを口走れば、彼はその色彩が微妙に異なる双眸を見開き、いつも通り隣に控えているであろう彼女の頭を撫でながら「その相手を僕は今聞いてもいいのかな」と言ったはずだ。

その姿が容易に想像出来るからこそ、実渕は体育館の壁に寄りかかり、溜め息を吐きながら寄り添う2人をぼんやりと眺めていた。

練習の休憩中に主将とマネージャーが打ち合わせをするのは、けして珍しいことではない。

しかし彼らはただの主将とマネージャーではないのだ。

バスケをするには小柄な体躯の主将は凛とした佇まいで話をしていたかと思うと、突如見ている側が泣きたくなる程優しく愛おしげに彼女の頬を撫で始める。

対するマネージャーも育ちの良さを表すように無駄も穢れも見せない様子で話をしていたかと思えば、信頼とも心酔とも取れるような表情でうっとりと彼の手を甘んじて受け入れているではないか。

所謂美男美女の甘い戯れに、外野からも耽美な吐息が漏れ出す始末である。

この絵になる男女が、今年入学したばかりとは思えぬ程センスの塊である幼馴染み同士という事実が、より一層周りを惹きつけていた。

かく言う実渕もその1人である。

最初はただの凄い後輩だったはずの2人は、あっという間に1人は自分たちを仕切る立場の座を、そしてもう1人は思い人の座をあっさりと得てしまったのだ。

自分の上を行く完全無欠の後輩の幼馴染みが気になるなんて、なかなか厄介な事態である。


「玲央先輩」


その現実から逃避しようとしていた実渕を呼び戻したのは、元凶でもあるマネージャーだった。

華奢な彼女は真っ直ぐ彼を見上げていたが、そこで狼狽しなかったのはさすが実渕と言えるだろう。

動揺を全て奥へ奥へと飲み込んだ彼は、極力優しく微笑んでみせた。


「あら、どうしたの名前ちゃん」

「あ、いえ…その…休憩中にすみません」


彼女にしては妙に歯切れの悪い返答である。

疑問を覚えた実渕ではあったが、背を屈め彼女と視線を同じ高さにすると冗談めかして言った。


「構わないわよ。もしかして征ちゃんにいじめられたのかしら」

「違います、けど…」


眉を下げた彼女は、その表情からも何かに困り迷っている様が見て取れる。

彼女の妨げになるものは大体赤司が排除していたし、こんな状態の彼女が実渕の元へ来たことなど今まで一度もなかったのだ。


「征ちゃんにも言えないぐらい悩んでる…のかしら?」


出来るだけ優しく諭すように問えば、名前は漸く小さく首を縦に振る。


「正確には、訊いてみたけど教えてくれなかったんです。私、何か分からないことがあったり、困ったことがあったら全部征十郎に話してきたんですけど…」


実渕は普段彼女の幼馴染みがするように、目の前の頭を撫でてやった。

そのまま髪に指を滑らせても、彼女は頬を僅かに赤くしただけで嫌がる素振りは見せない。

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