「モデルのオレとバスケやってるオレ。どっちがカッコイイっスか?」
「「どっちも〜!」」
「どーもっス!」
校門前で奴がとびきりの笑顔を向ければ、奴を取り囲んでた女の子達は黄色すぎる声を上げた。
耳が痛すぎるそれは、イコール奴の人気とも言える。
通行人の迷惑もお構いなしに完全ハーレム状態になっているのは黄瀬涼太…ちょっと有名なモデルであり、そして高校バスケ界ではちょっと有名な選手だ。
決めるときに決めるってとこはまぁいいんだけど、ファンの子の前にモデルとしているときの奴はあんまり好きじゃない。
あからさまな嫉妬だって分かってる。
でも涼太は私の彼氏なんだから。
「ねぇねぇ涼太君、今度の試合頑張ってね!応援行くから!」
「私も私も!差し入れ持ってくね!」
キラキラ輝く奴の周りに集る女の子も、皆キラキラしてる。
本当に好きなんだろうなって思うと同時に、私の中で嫌な感情が渦巻いた。
これも仕事だと何回言い聞かせても、割り切れないものは割り切れない。
「おまたせっス!」
漸くファンサービスを終えた奴が駆け戻ってきた。
両手に溢れる袋やら箱やらは、どれも綺麗に包装されている。
ニコニコキラキラした奴の笑顔と同じぐらい、私にはそれらのプレゼントが輝いて見えた。
「今日もファンサービス、オツカレサマ」
「これもちゃんとしとかないと事務所から怒られるんスよ」
プレゼントを大きな紙袋に纏めながら言った涼太のセリフは、その世界にいるなら当然のことだと思う。
それは分かってる…けど、私はわざと彼を置いていくように歩き出した。
涼太が先に歩く、私が少し離れてついていく、涼太がファンサービスする、涼太が私のところまで戻ってくる、そして逆に私が涼太を置いて歩き出す。
下校時はいつもこうだ。
「ちょ、いつもヒドくないっスか!?」
袋をガサガサ言わせながら走ってきた涼太は、あっさり私に追いつくと、意図も容易く手を絡めとってきた。
しっかり繋がれた手に力を込められてしまったら、もうほんと自分が馬鹿で仕方なくなる。
「簡単には逃がさないっスよ、名前」
楽しげにそう言った涼太は、大きな背を屈めて顔を寄せてきた。
「馬鹿、ここ何処だと思って…!」
「誰も見てないって」
さっきまで囲まれてたのを、もう忘れたんだろうか。
私は思い切り顔を背けながら、彼の胸元を押し返す。
すると涼太は、分かりやすく頬を膨らませながら顔を離した。
「もー、せっかく拗ねてる彼女慰めよーとしたのに」
「いやもう色々ツッコみたいけど、とにかく無理なもんは無理」
「じゃ、人目がなければオッケーってことっスね」
いっそ殴ってやろうかとも思ったけど、拗ねてるのも、人目がなければいいのも間違いじゃない。
だってやっぱり私は───
「家まで我慢なんか無理っスから」
痛いぐらいに腕を引かれて脇道に引き込まれる。
狭い路地に背中を押し付けられ、隠すように覆い被さられてしまったら、後はもう瞼を下ろし少しだけ背伸びするだけだ。
「これで機嫌直して」
何度も降ってくる唇に幸せを感じながら、黄瀬涼太の隣にいても恥ずかしくないような、隣にいることを認められるような女になろうと思ったのだった。
現金な奴だよね、私って。
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