その日の体育館は、ムシムシと噎せ返るような熱気に包まれていた。
バテないように休憩と水分補給を小まめに行っていた陽泉高校バスケ部であったが、やはり体力はがっつり奪われていたらしい。
さあそろそろ休憩にしようか、というところで、ちょっとした事故が起きた。
「名字!」
「ぐ…っ」
名を呼ばれたのも束の間、名前は突如腹部に感じた鈍痛に思わず唸ってその場にしゃがみ込んだ。
一気に目が覚めたらしい部員達が慌てて駆けてくる。
「大丈夫か名字!」
「悪い!大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。ちょっと当たっただけだし。まさかボールがお腹に飛んでくるとは思ってなかったですけど」
口々に飛んでくる心配を跳ね返すように、名前は平然と立ち上がってみせた。
幸いぶつかったボールは大した勢いではなかったので、腹部には軽い違和感が残っているぐらいなのである。
此処に陽泉が誇る女監督・荒木がいれば部員達の悲痛な声が響いたかもしれないが、生憎今は職員会議中で不在。
たまたま吹っ飛んだボールがたまたまそこにいたマネージャーに当たった、というちょっとした事故として片付けられる。
「休憩にすんぞ。長めに取るから、しっかり休めよ」
「「っす!」」
副主将の一言で部員達は散り散りに散っていった。
タオルやドリンクの準備は出来ているし、記録も問題ない。
備品も全て出ているはずと辺りを見渡していた名前の肩に、普段は茶色の球体を操る大きな手が乗せられる。
「福井先輩」
「悪かったな、名字。大丈夫か?」
「ちょっと当たっただけだから大丈夫ですって」
一瞬観察するような目が光るも、ならいいけどと福井はすぐに納得したのか後ろ頭を掻いた。
すると今度は、その福井を押し退けやたらとゴツいモノが飛んできた。
「名字大丈夫かあああああああ!」
「むしろ主将が大丈夫ですか!?」
親バカ丸出しの如く名前の両肩を持って正面で泣き喚き出したのは、陽泉バスケ部を率いる主将である。
普段からマネージャーであり後輩でもある名前を可愛がっているのだが、今日も今日とて喧しい。
「うっさいアル!空気読めアゴリラ!」
スパーン、と心地好い程の音を立てて主将の頭を叩いた劉は、ぶつくさ言いながらも未だ喚いている巨体を引き摺っていった。
刹那の嵐に、残された名前と福井は絶句である。
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