「名前。なぁ名前って」
「…………」
声は聞こえているはずなのに、名前はツンとそっぽを向いて、頑なにオレを見ようとはしなかった。
何でコイツがこんなに拗ねてんのか分からねーし、そもそも何が原因でこうなったのかも思い出せない。
ただこれは誰にも相談せず、オレらだけで解決しなきゃなんねーってことは確かだ。
「…名前」
「ばか死ね」
ちょ、せっかくリアクションあったと思ったのにボロカスじゃん。
マジ何でこんな拗ねてんの?
「…………」
名前はどこか不満そうに眉を顰め、口を真一文字に結んでいる。
でもその瞳は波の上を泳いでいるようで───
「オマエの言う通り、オレ馬鹿だから名前が何言いたいのかとか何考えてんのかとか分かんねーよ」
ピクリと名前の肩が強張った。
「でも死んだら名前にチュー出来ないから死にたくない」
「ばか死ね」
おんなじセリフだったけど、さっきとは明らかにニュアンスが違う。
「へらへらしてるくせにバスケしてたらカッコいいし、実は変態のくせにやたら女の子にモテるし、やっぱ何かカッコいいし…こっちの気にもなってみなさいよば和成!」
──────は?
いやいや名前チャン、今何て?
しかも言うだけ言って泣くとか何?
「和成のばか死ね」
「いい加減それやめろって」
慰めるつもりで頭に手を伸ばしたのに、名前の目からは次々雫が零れ落ちていく。
目も鼻も頬も赤くて不細工なのに───可愛いんだよな、何か。
「あーもー、ほら泣き止めって。チューすんぞ」
「…………」
……無言で睨まれた。
ダメかやっぱ。
「………………すればいーじゃん」
え、ツンデレ?
「んじゃ、遠慮なく」
真っ先に浮かんだ言葉を喉奥へ飲み込んで、オレは震える唇にそれを押し当てる。
柔らかい部分が触れ合えば、後は彼女の機嫌が直るのを祈るだけだ。
「…………和成」
涙に濡れた瞳に、間抜け面したオレが映り込んでいる。
「もっかい」
「オマエそんなのどこで覚えてくんだよ…」
ウチの妹チャンともエース様とも一味違うお姫様は、デレたときの破壊力が凄まじいと思う。
いやマジで。
やっぱまだ当分死ねねーわ。
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