もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
同じ動作を繰り返す大きな紫を見上げ、引き攣った表情で声を呑んだ。
中学生とは思えないこの大男は、一体どれだけ食べるのか。
しかも体に悪そうな───でも時々無性に食べたくなる───ジャンクフードを。
食欲の秋という言葉が世の中にはあるが、彼からすれば食欲の毎日なのだろう。
ただし大好きなお菓子に限るが。
「名前ちんも食べる〜?」
漸く名前の視線に気付いたのか、下へと向けられた紫の眼差しがゆらりと揺れる。
「………ううん、敦くんのだしいいよ。気持ちだけもらっとくね」
「そう〜?」
じゃあ遠慮なく、と、つい先程開封されたばかりのお菓子が、また1つ彼の胃の中へ消えていった。
さっきからもうずっと食べ続けているというのに、その手は止まる気配がない。
「…紫原」
次の袋に手をかけた紫原を眺めていた名前が振り返れば、その澄んだ声の持ち主である赤司が歩み寄ってくるところだった。
「名字さん、いつもありがとう。紫原の世話は大変だろ?」
「え、別に世話してるわけじゃ…」
「そうかい?"たまたま同じクラスでたまたま隣の席で、そのせいでバスケ部のマネージャーにまでされた紫原敦のお姉ちゃん・名字名前"…って聞いたけど」
「誰から?それ誰情報!?」
名前が頬を赤くして問い詰めるも、赤司は降参と言わんばかりに両手を軽く上げて微笑むだけである。
穏やかに細められた瞳が、不機嫌そうに頬を膨らませている紫原へと向けられた。
まるで親と子のようだ。
「赤ちん、何しにきたの?」
「ちょっとね。もう帰るよ」
「待って赤司くん、私はまだ話が…」
名前の制止を受け止めることなく、赤司は颯爽と去っていってしまった。
何をしに来たか分からないような一瞬の戯れだったが、あの赤司のことだ、この一瞬で用を済ませてしまったのかもしれない。
「…もう」
「名前ちんってさ、赤ちんと仲良いよね」
赤の背を眺めていた名前の頭から背にかけて、ずっしりとした何かがのし掛かる。
「敦くん重い…」
「潰れそー」
「うん、このままだと多分潰れる」
じわじわ迫り来る重みに耐えつつ、名前は首だけで振り返り訴えた。
お菓子の詰まったコンビニのビニール袋を揺らしながら動かない紫原は、"えー"と駄々をこね始める。
「名前ちん、ココでのオレの姉ちゃんなんでしょ〜?」
「そうなった覚えはないんだけど…」
「はい」
その言葉と共に名前の目の前に差し出されたのは、先程からがさごそ音を立てていたビニール袋だ。
中身は大分消化されたはずなのだが、まだ見慣れたパッケージのお菓子が沢山詰め込まれている。
「お腹空いたから食べさせて」
「は?」
「あーん」
見えない疑問符を頭上に浮かべた名前だったが、なんだかんだでのし掛かられたままのため動けない。
僅かな自由を使い、"弟"の口にお菓子を放り込めば全て解決する───だろうか?
「早くしないと名前ちんごと食べちゃうよ」
「!!?」
分かりやすい程大きく、名前の体が跳ねた。
「ジョーダンだしー」
ふう、と大きな溜め息の後に、欠伸が聞こえてくる。
紫原が実は賢い人物であることを知っている名前は、胸を撫で下ろした。
が。
「出来るだけ最後まで取っとくから安心してー」
出来るだけって、何?
次の瞬間舞い戻ってきた疑問に固まる名前だったが、その頭上で"弟"は"姉"からのお菓子を強請り続けていた。
return
[1/1]